日産、ゴーン船長を追い出したら難破するのは分かっていたのに・・
日産自動車(日産)は4月28日、2020年3月期の決算は赤字に転落するとの見通しを発表しました。営業利益が見通しの850億円から1200億円~1300億円程度、当期純利益が見通しの650億円から1500億円~1600億円程度悪化する可能性があるとのことです。ということは、営業利益は350~450億円の赤字、当期利益は850~950億円の赤字ということになります。
しかし、こんなレベルでは済まないはずです。最終決算では、営業利益は1000~2000億円の赤字、当期利益は2000~3000億円の赤字になるはずです。
それは販売台数(世界)で見ると分かります。日産は、1月が前年同月比13.3%減、2月24.2%減、3月42.6%減です。一方トヨタは1月1.4%減、2月3.7%減、3月23.8%減ですから、コロナだけの影響ではないことが分かります。2019年度の世界販売で見ても日産は前年比13・2%減の479万台で、前年の551万台から72万台落としています。そしてホンダ(484万台)に抜かれています。更に日産の強みであった中国でもホンダに抜かれているのです(ホンダ前年比1・8%減の約144万台、日産同10・3%減の約141万台)。これはゴーン追放により、ゴーンがスカウトした世界各地の販売責任者が日産を去り、販売体制が弱体化したためと考えられます。
更に悪いことに、ゴーンの後継者選びで、日産とルノーが綱引きをし、混乱時の日産の経営者として最もふさわしかった関元専務ではなく、ルノーの受けが良かった内田専務を選んだことが日産の再生を難しいものとしました。コロナ感染問題が起きなくても、2020年3月期日産は赤字に転落していました。内田社長にとってコロナは良い言い訳の理由が出来た感じだと思われます。
日産はゴーン時代年間700万台の販売を目指して製造、販売体制を整備してきました。それが年間480万台の販売にまで落ちていますから、製造設備が相当過剰ということになります。昨年来メキシコやスペイン、インドネシアなどの設備を休止していますが、今後廃棄処分が必要となります。
販売力あっての製造設備ですから、ゴーンは世界販売の強化に注力してきました。そのため世界各地の販売責任者はゴーンが自らスカウトし、ゴーンが直接指揮していました。ゴーンが重視する市場は米国と中国であり、ここを日産の生命線と位置付けていました。ここはルノーが弱い地域であり、ここを押さえていれば資本関係で見れば日産はルノーの子会社であっても(43%あれば実質的に子会社です)、対等な関係に出来ました。それはゴーンがルノーの会長に上り詰める手段でもあったのです。そのためゴーンはトヨタが君臨する日本は市場としては重視せず、開発と製造拠点と見なしていたと考えられます。この戦略は見事に成功していたわけで、2017年には577万台の世界販売を達成しています。上手く行っているときには戦略を変更しないのが鉄則であり、このままゴーン路線を続けていれば、日産・ルノー連合は世界の強豪連合であり続けたと思われます。ゴーン追放後販売が落ちた米国市場について、ゴーンの安売り政策を中止し販売を正常化したためと言われますが、自動車メーカーの損益は製造・販売合わせて見る必要があり、米国の販売台数が製造原価の引下げに貢献し、日産本体の利益に大いに貢献していたのだから、正しい政策だったことになります。ゴーンが最も優秀だったのは、販売のマネジメントでした。特別背任容疑が掛かっている中東で日産のシェアは20%を超えていたのですから、その手腕が分かります。これだけのシェアを獲得するためには相当の軍資金が必要となります。その軍資金はグレーなものもあり、通常の社内決裁手続きでは獲得できません。その為にCEOリザーブと言うゴーンが単独で使える予算があったのです。これは万が一その資金使途が問題になったときに日産本体や他の役人に累が及ばないようにするためにも良い方法でした。ゴーンは販売人材の獲得・配置とそのための資金の使い方がとても優れていたと考えられます。追放前には、ゴーンは世界の10指に入る実力経営者だったと思われます。
このことは日産社内で見ていれば分かりそうなものです。特に日本人役員は潰れそうになった日産の当時を知っている人たちであり、あの当時と比較が出来たはずで、日産の今の栄華は偏にゴーンの手腕によるものと言うことは分かっていたと思われます。確かにお金に汚い所があり、ゴーンと比べて日本人役員の報酬が低い点は不満だったと思われます。日産の役員の半分は日本人であり、ゴーンは、日本人は高い役職に就けるけど利益を上げることは下手だから高い報酬は与えない、一方外国人は高い地位には付けないけれど利益を上げることは上手いから上げた利益に応じて高い報酬を与える、と言う方針を採っていたように思われます。このことに対する不満が積もり積もって日本人役員たちは、有価証券報告書への不実記載の疑いという些細な問題を取り上げ、手柄を上げたい東京地検特捜部を誘い込み、一大冤罪事件を作りだしました。これでゴーンとケリー氏に無辜の罪を押し付けたのですから、日産がそれに見合う罰を受けるのは必然でした。今回の赤字転落はその罰の端緒に過ぎません。罰が本格化するのは今期です。第一四半期は5,000億円を超える赤字になっておかしくありません。2020年度トータルでは1兆円近い赤字が予想されます。
この結果日産単独での生き残りは困難であり、ルノーに吸収されるか、或いはルノーが日産を見捨てることによって中国の東風集団に買収されるか、それともルノー・東風・日産連合となるか、だと思われます。