PCR検査受けたければ「みかじめ料」を払え?

5月8日、厚生労働省はPCR検査基準の見直しを発表しました。これまでの基準は以下の通りです。
(1)2週間以内に感染者と濃厚接触があり、発熱または呼吸器症状がある
(2)2週間以内に流行地域を訪問したか、流行地域への渡航歴がある者と濃厚接触がある

(3)37・5度以上の発熱が4日以上続いた場合で、肺炎の症状がある

(4)医師が総合的に判断した結果、感染の疑いがある

(5)インフルエンザやそのほかの呼吸器感染症の検査を行い、それらの感染がなかったと判明した、あるいは治療しても症状が治まらなかった

(6)以上に基づき保健所に相談した結果、PCR検査が認められた。

これを簡素化し、次のようにするということです。

(1)息苦しさ、強いだるさ、高熱などの強い症状のいずれかがある

(2)高齢者や基礎疾患がある人で、発熱やせきなどの比較的軽い風邪症状がある

(3)比較的軽い風邪が続く

(4)医師がPCR検査が必要と判断した

(5)それに基づき保健所に相談した結果、PCR検査が認められた

これでPCR検査を受けられる人が増えるかと言うと大間違いです。実は厚生労働省の基準は表の基準であり、裏の基準があるからです。裏の基準は医師会が厚生労働省と相談し作成し、全国の病院および診療所に通知しています。これまで厚生労働省が出していた表の基準に対する医師会の裏の基準は次の通りだったようです。

<37・5度↑>/<SPO2<93%>/<肺炎像+>

これはどういうことかと言うと、(1)37・5度以上の発熱があり、かつ(2)SpO2が93%以下の者で、(3)胸部X線検査で肺炎の像が認められる患者、に限って保健所に相談させて良い、という意味です。SpO2とは動脈血酸素飽和度のことで、血中に取り込まれた酸素が赤血球と結合している割合のことだそうです。98%が正常値で、これが93%というのはゼーゼーハーハー言って死にそうなくらい苦しい状態だそうです。つまり、これまでの基準ではかなり危険な状態まで症状が悪化しないと、保健所にPCR検査を受けたい旨相談さえできなかったことになります。何故かSPO2という新たな基準が追加されています。

厚生労働省が医師会の了解を得ずに基準を作ることはあり得ませんので、厚生労働省の新旧基準は医師会と綿密に協議して作られたものです。厚生労働省は国民の批判を受けて、形式上はPCR検査を受けられる対象を広げたように見えますが、実際上は医師会の裏の基準により従来とさほど変わらない運用となるはずです。

コロナに感染しているかどうかは、重症にならない限り医師には判断できないと言われています。現在医師が判断しているのは、入院させる必要があるほど重症かどうかということです。コロナに感染しているかどうか現時点で一番早く、かつ正確に測れるのはPCR検査であることは誰もが認めるところです。ならば医師がPCR検査が必要かどうかを判断するのではなく、気になる人は先ずはPCR検査を受けさせ、そしてコロナ感染が判明したら医師の指示を仰ぐと言う順番にすべきなのです。こうすれば、コロナ感染者と判明している人が受診に来るわけですから、病院としてもそれ用の施設で、それ用の装備をして、注意深く患者と接せられます。その結果、院内感染は相当防げることになります。現状では感染者と非感染者が混じり合っており、医療従事者としては区別できず、注意が疎かになり院内感染が拡大しています。だから、PCR検査をしてから受診という順番は、医療従事者を守るためにも不可欠です。

医師会としては、保健所の能力不足や感染症対応の病床不足、また検体採取の危険性、PCR検査施設の不足などから、PCR検査を絞ることに協力しているものと考えられます。しかし、その考え方は間違いです。ここ新しい基準に該当する人は、先ずPCR検査でコロナに感染していないと判明しない限り、医師は診断しないという方針にすべきです。そしてPCR検査センターの拡充に協力すべきだと思います。

現在PCR検査は保健所の管轄下の検査センターで実施されていますが、民間の検査センターでもできることになっています。しかし、これが増えていないことがPCR検査を受けたくても受けられない大きな原因になっています。では何故民間の検査数が増えないのでしょうか?検体の採取が難しい、運搬の安全が保てない、検査要員が不足しているなどのできない原因が挙げあれていますが、最大の原因は、医師会が消極的だからです。それは検査を受けられるかどうかは、薬を薬局から買えるかどうかと並んで、医師の重要な権益だからです。医師の診断なしに自由にPCR検査を受けられることになると、多くの人が病院を経由せずにPCR検査センターに行きます。その結果、感染していない人が大部分ですから、この人たちは病院に来ません。病院としてはこの人たちからの診療報酬が得られなくなるのです。薬の場合も本当に効く人は2~3割と言われており、効かない7~8割の人に処方しているから病院経営が成り立つのです。PCR検査についてもこれと同様です。PCR検査に医師の診察を必要とするのは、一種の「みかじめ料」と言えます。