黒川検事長の特徴は「ディール」、実は安倍首相にとって最も危険な検事総長

検察庁法の国会審議に対してツイータ攻撃が止みません。たぶん1千万ツイートに達しているのではないかと思います。このツイートの特徴は、芸能・文化人が名前を明かしてツイートしていることです。芸能・文化人の場合、政治的発言や行為は仕事に悪影響を及ぼすため禁忌とされてきました。それにも関わらず多くの芸能・文化人が声を上げたのは、このままでは暗黒社会になると言う直感が働いたためと思われます。これを笑うツイートなどには改正案の中身を知らないで流行に乗っているだけと言うものもありますが、これは中身の問題ではなく、もっと日常生活で大切なものが壊れようとしていることに対する抗議だと思います。それはこの改正案が違法な黒川検事長の定年延長を合法化するためのものであることが背景にあります。これがなければこれ程の抗議行動にはなっていないと思われます。ようするに、黒川検事長の定年延長は、安倍首相に貢献してくれた黒川検事長へのご褒美であり、そのために違法に定年を延長したと考えられるからです。定年というものは、両親や親戚、近所の人、会社の同僚など身近にあります。そしてみんな規則に従って粛々と去っています。日本における去り際の美学みたいになっています。この美学を日本の首相が自分に尽くしてくれた部下の為、法律を破ってまでやろうとしていることにみんな憤っているのです。これで安倍首相は多くの国民から愛想を尽かされ、サル首相として残りの任期を過ごすことになります。

さて一方の当事者である黒川検事長ですが、相当のやり手であることは間違いありません。それは検察官としてよりも行政官としての手腕です。黒川検事長は検察官としての現場勤務は少なく、主に法務省本庁で法務行政を担当しています。検察官の場合、政治家の問い合わせに対して業務上の癖から一刀両断にするタイプが多いようですが、黒川氏はそうではなく相手の言うことを十分聞いて「分かりました。検討します。」と引き取って、相手に花を持たせていたようです。その為政治家としても面目を潰されることがなく、「話をするなら黒川」という風になって行ったようです。黒川氏が存在感を発揮し始めたのは、元厚生労働省の官僚木村厚子氏が逮捕・起訴された事件で、大阪地検特捜部の主任検事が証拠文書を改ざんし、それを上司が黙認していたことから、検察の在り方が国会で議論されることになったとき検察の在り方検討会議の事務局を務めたことから始まるようです。ここで黒川氏は政府や政治家と交渉し、捜査を録音・録画で透明化する代わりに、通信の傍受や盗聴、司法取引を認めさせています。捜査が録音・録画化されることは検察に取り大きな痛手でしたが、代わりにこれまで望んで叶わなかった通信の傍受や盗聴、司法取引が得られました。検察にとってビッグディール(取引)だったことになります。ここで黒川氏はディールというものを学んだと思われます。大きな成果を上げるためには、それに見合う譲歩(失うもの)があるのは仕方ないと言う考え方です。これまで法務官僚は検察官時代の取調べの癖で、政治家に対しても一歩も妥協しないタイプが多かったと思います。しかし黒川氏はそうではなく大きな譲歩もしたことから、政治家も面目が立ち、話が分かる官僚の評価が広まって行ったものと思われます。

黒川氏が法務省の官房長に就任したのは民主党政権のときのようなので、黒川氏には政治色はないと思われます。民主党政権からも自民党政権からも評価されたわけですから、やはり素直に優秀だったものと思われます。

そして安倍政権でも官邸と検察幹部との間でディールを、というよりディールの仲介をしたものと思われます。黒川氏が勤めた官房長および事務次官は検察のラインに入っていないので、黒川氏が個別の案件につき直接検察幹部と交渉することは無かったと思われます。できるとすれば、官邸からの問い合わせに応じて検察幹部から捜査情報を入手し官邸に伝える、そして官邸幹部(杉田和博官房副長官?)と検察幹部(検事総長)の面談をセットし、同席したことが予想されます。この場合両者だけだと物別れになるのが落ちですから、黒川官房長または事務次官が落しどころ(ディール)を提案していたのではないかと考えられます。例えば、森友事件の場合、財務省の内部調査に基づき議事録や決裁書の偽造が判明したとして、責任者だった財務省の佐川元局長(当時国税庁長官)は辞任、偽造した議事録及び決裁書は全面公開するとの財務省の決定を受けて、大阪地検特捜部は佐川元局長など関係者を不起訴処分としました。これは実質的には、佐川元局長を起訴の上裁判で証拠書類を開示し、佐川元局長は執行猶予付きの有罪判決を受けたのと同様な効果がありました。これには検察・官邸間で相当激しい交渉がなされたことが伺えます。この際に検察と官邸の間に立ってまとめるために尽力したのが当時の黒川事務次官であったと思われます。

ここから伺われる黒川検事長の特徴は、司法にディールの考え方を持ち込んでいることです。それでも森友事件では司法の本質は外さないという心構えが感じられます。従って、安倍首相から次期検事総長に指名された場合でも、政権関係者だからと言って全面的に手心を加えることは無いと考えられます。当該関係者のこれまでの社会的政治的貢献度とこれを見逃すことに依る社会的法的悪影響を冷静に比較考量して、事件化するかどうかを決定すると考えられます。そして当該関係者を逮捕・起訴した方が社会的法的利益が大きいと考えれば、躊躇なく断行する人だと感じられます。黒川検事総長は、安倍政権の期待に反して安倍首相および安倍政権にとって最も手ごわい検事総長になる可能性があります。