尽くした官僚を地獄送りにする安倍首相
安倍首相は大臣にはお友達を任命し、側近には気が合う官僚を置くことで有名です。これは幼稚園から大学までお坊ちゃまのお友達と一緒に過ごした成城学園で培われたスタイルだと思われます。そして勤めを終えた官僚は出身官庁に戻し、事務次官などに出世させています。これは一見論功行賞でもあります。しかし、中には良かれと思って行った論功行賞によって、地獄送りにされた官僚もいます。
先ず元財務省理財局長の佐川宣寿氏です。佐川氏は、森友事件で安倍首相の昭恵夫人が建設予定の小学校の名誉校長を務め,森友学園理事長の籠池泰典氏と親しい付き合いがあったことから、森友学園への国有地払い下げに口利きした疑いがかけられ、安倍首相が国会で追及されました。この際安倍首相が「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と述べたことから、この関与を示す証拠が出て来ると大ごとになる事態となりました。そこで近畿財務局を管轄する佐川財務局長は、土地払い下げの経緯が書かれた議事録および決裁文書の昭恵夫人の関与が疑われる記述を中心に改竄を命じたようです(本人は否認)。この前には野党から議事録や決済文書の提出を求められ、それらは存在しないと明言しました。公務員の業務で議事録や決裁文書が存在しないことはあり得ず、これはどこかでボロが出ることが予想されました。その後佐川氏は国税庁長官に出世します。これは佐川局長が安倍首相を守るために奮闘したことに対する安倍首相および麻生財務大臣からのご褒美でした。この問題は告発を受理した大阪地検特捜部が捜査に乗り出しましたから、普通ならここで議事録や決裁書の存在が明らかになり、佐川氏の嘘がばれるところでした。案の定特捜部はこの事実を掴みます。通常なら公文書偽造として起訴間違いなしのところです。しかし官邸が検察に働きかけ、検察と取引をします。両者の交渉の結果、偽造を命じた佐川氏は国税庁長官辞任、これに監督責任がある財務省の幹部は国家公務員法による処分および偽造された議事録および決裁書は財務省の責任で全面公開ということになりました。これにより佐川局長は社会的制裁を受けたことになり、起訴されたら裁判の過程で明らかになった偽造文書は公開されたのだから、実質的に起訴され裁判になったのと同じだという訳です。検察としては起訴できなかったのは残念だったと思いますが、起訴し裁判になったのと同様な結果を勝ち取れたことで、やれるだけのことはやったという気持ちだったと思われます。しかし、佐川局長は2020年3月、議事録の偽造に直接携わったことに責任を感じ自殺した近畿財務局職員の遺族から不法行為を命じたとして民事訴訟を提起されました。これは佐川氏や家族には地獄だと思います。
このように安倍首相が自分に尽くしてくれた官僚に行ったご褒美の昇進がその後官僚を地獄に突き落としているのです。
それは今話題の黒川東京高検検事長についても同じです。黒川検事長は安倍政権下で法務省の官房長を5年、事務次官を2年少し務め、検察が佐川局長のような安倍政権のために貢献した官僚や政治家を捜査する場合に官邸と検察幹部との交渉の仲介役を務めていたと考えられます。黒川検事長の経歴を見ると、検察の現場よりも法務省事務方としての期間が長く、政治家との交渉力に長けていたと思われます。そしてそれが一番発揮されたのが官房長や事務次官のときだったと思われます。これで最も救われたのは安倍首相の側近であり、麻生派幹部であった甘利明元内閣府特命大臣のあっせん収賄罪容疑の不起訴だったと思われます。これらで黒川検事長が使い勝手のある官僚であることを知った安倍首相(および菅官房長官)は、公職選挙法違反容疑が掛かる河井克行衆議院議員を不起訴に持ち込む、また安倍首相退任後在任中の問題で安倍政権幹部が捜査・起訴されないようにするため、検察庁法の解釈を変更するという違法行為まで行って、黒川検事長の定年退官を6カ月延長するという荒業に出ます。この違法状態を解消するため、検察庁法を改正し検察官の定年を国家公務員と同じように65歳とする改正案の審議を急ぎますが、これに抗議するツイートが1,000万件に至る大騒動になっています。総選挙は当分ないので、安倍政権としてはそれ程の脅威にはなっていないと思いますが、これで社会全体にズル安倍の評価が定着することとなり、国民の信を失くした安倍首相にとっては辛い残りの任期となりそうです(5月18日、安倍政権は検察庁法の改正を断念したという報道です)。
一方定年を延長された黒川検事長もつらい立場だと思います。この定年延長が違法行為であることは黒川検事長自身分かっています。また稲田検事総長からも違法行為であり、延長された東京地検検事長の地位には法的根拠がないので、旧来の検察庁法の規定に乗っ取って定年退官した方が良いと諭旨されたと思われます。常識人なら政府の定年延長の申し出を断て、退官です。それがなぜ受けるという判断になったのは本当に謎です。
しかしこれにより黒川検事長は多くの国民ばかりでなく検察内部からも批判され、家族も辛い状況に追い込まれていると思われます。そうなのです。安倍首相がとった黒川検事長の違法な定年延長は黒川検事長(および家族)を地獄に突き落としているのです。
佐川元局長と黒川検事長は、安倍首相の幼稚な利己主義の犠牲者だと言えます。