人事院は定年延長の財源と若者の就職難にも責任を持つべき

検察庁法改正案の土台だった公務員65歳定年延長法案は今通常国会では成立しないことが確定しました。それと同時に廃案の可能性も出て来ています。それは自民党の世耕参議院幹事長がコロナ感染拡大による経済の惨状を見ると、国家公務員だけ定年を延長することは国民の理解が得られないと発言したからです。これに安倍首相も賛意を表しましたので、廃案か先送りになると思われます。

今のコロナ禍により企業の倒産が増加し、失業者が増加しています。それに収入が激減した人が多数出ています。これは未だ序の口で大企業は9月以降今期の落ち込んだ業績に見合った人員体制に向けリストラを開始します。そうなるとリーマンショックを上回る失業率になると思われます。既に採用活動の中止を発表した企業が出ていますし、今後リストラが始まることから、新規の採用は考えられない状況です。多分就職氷河期並みの低い就職率になるはずです。コロナ終息が全く見えないこの状況で公務員の定年だけ65歳まで引き上げると言う神経がどうかしています。これが成立すれば、役所もこれに合わせて採用計画を立てますから、今後新卒の採用人員を減らしていきます。その結果、公務員への就職は狭き門になります。親が勤務期間を延ばした結果、子供は就職できなくなるのです。こんなこと親は喜ぶのでしょうか?

人事院は、公務員がスト権など労働基本権が制限されているため、第三者的な立場から公務員の待遇を考えるために置かれていますが、今では公務員天国を目指す司令塔のように思えます。既に公務員の待遇は、大企業の上位並みにあります。仕事の厳しさから比較すると公務員の方が割が良いと言えます。だから公務員の人気は高いものとなっています。

一方最近は身分保障が行き過ぎて、名ばかり処分となり不祥事が起きて処分されて直ぐ昇進・昇格するケースが続発しています。森友事件の際に処分を受けた財務官僚は程なく全員昇進・昇格しています。また森友事件の際、文書偽造が刑事犯罪に問われず、軽微な処分となったことから、経済産業省でも議事録偽造事件が起き、森友事件の処分に倣って軽微な処分となっています。民間企業の場合、1つ処分を受けるとその後よっぽど活躍しないと昇進・昇格は望めません。そこで出世レースから脱落します。そういうことを考えると、公務員の処分は大変甘いものであり、形骸化しています。これらの基準を決める人事院は、処分の基準はどんどん甘くし、待遇はどんどん引き上げていると言えます。公務員天国化計画を着々と進めていることが分かります。

公務員定年延長法案は、公務員の定年を65歳まで延長し、60歳時の70%の賃金を支払うという内容ですが、民間企業では55歳で役職定年となり、この時点で給与は55歳時の60%、61歳以降で30~40%となります。これは総収入のうち人件費に充てることができる金額が決まっているため、勤務期間が延びた分1期間の給与は落とさざるを得ないのです。公務員が60歳時の70%を保証するということは、その分人件費が増えることとなりますが、この財源について人事院は全く触れていません。会社で新しい制度を導入する場合、その財源をどうするかが最大の問題になります。人事院についてもこれについて考え、解決策を出させるべきだと思います。そうすれば安易に65歳延長案など出てきません。一番考えられることは、公務員の給与原資総額はこれまでのままで、定年が伸び勤務期間が延びる分、1期間の給与を少なくすることです。これは民間企業のやりかたであり、これならありだと思われます。もし増税をしてというなら、それに見合う国民のメリットを提示すべきです。「高齢期の職員の豊富な知識、技術、経験を最大限活用する」と言うような美辞麗句は何の説得力もありません。具体的かつ説得力のあるメリットが必要です。公務員の定年延長や給与は国家財政の状況で決まるものであり、人事院も国家財政の状況から解き起こして制度を設計する必要があります。今のままでは人事院は、国家財政に関係なく公務員の待遇改善を図る公務員のための機関、独立委員会を利用した公務員天国実現機関となります。

なお、公務員の定年延長の理由を年金の支給開始が65歳であり、それまでの生活費を保障する必要があるためということも聞きますが、それなら年金を支給した方が安上がりです。何も年金の2倍、3倍の給与を支払う必要はありません。公務員には個人差の小さい退職金が支給されているのですから、それで繋げます。これは全く国家財政全体を考えない愚論です。

私は人事院を解体し、内閣府に公務員給与局を置いて幹部人事と一体管理すべきだと思います。