国債残高1,000兆円超え。もう日本に残された道は輸出と生産性の倍増しかない

コロナ対策用の補正予算の成立により、今期国債を60兆円増発することが決まったようです。今後も必要となることが予想されるため、今期の国債発行額は100兆円に達するかも知れません。そうなると今期の当初予算規模が102兆円ですから、ほぼ今期の予算が国債で賄われた計算になります。今期の税収は予想の60兆円を大幅に下回り40~50兆円に留まることが予想されますから、今期の通常予算の財源も国債が50%を超えることになります。また今期末の国債残高は1,000兆円を突破します。

家計で考えれば、毎月の支出の内給与などの収入で払われるのは半分で、残り半分は借入金で払われている状況です。こうなると家計であれば以後誰も貸してくれませんから、借入はこれ以上増えません。ところが国の場合、国債を発行すればいくらでも借入を増やせます。普通なら国から返済を受けられそうもないとして国債の買い手がなくなりそうですが、日銀が買い取ってくれるため、それはありません。日銀は、紙幣を印刷して購入していますから、いくらでも購入できます。だから日銀は自らが保有する国債(2019年度末約460兆円)について国に返済を求めません。国債の債務者は国であり、国民ではありませんし、国民は債務保証もしていませんから、国に代わって国民が返済を求められることもありません。国は国債を返済するためと称して税金を上げてくることが考えれますが、これはそろそろ限界にきています。国債で最終的に返済を得られなくて損をするのは日銀以外の国債購入者です。日本国債の場合は日銀が約47%、銀行が約15%、生損保が約21%(2019年12月末)のような保有割合であり、銀行と生損保が一番損をすることになります。ギリシャで国債が問題になったのは、国債の多くを海外の金融機関が保有していたからです。その結果、海外の金融機関が巨額の損することになり、その損を小さくしようとして緊縮財政を求めたからです。日本の場合、海外の投資家が保有する国債は7.6%しかなく、こういう心配はありません。だから今期100兆円の国債を発行しても大丈夫です。しかし家計を見れば分かるように、支出は借入以外の収入で賄うのが健全です。国の場合、税収で歳出を賄うのが健全なのです。各国の財政の健全性は、国債残高の対GDP比率で見ていますが、日本が235%に対し、米国106%、英国87%、ドイツ64%、韓国40%などとなっています。正常値はGDP比100%以内とされているようです。これから見れば日本は異常な状態と言えます。この理由は、経済の規模以上に健康保険や年金に国が支出しているからです。今の経済規模なら健康保険料は今の2倍、年金支給額は半分が適正ということになります。従って、今の健康保険制度や年金制度を維持したければGDPを倍増するしかないのです。このままGDP比が悪化し続ければ円が信任を失い、円安→輸入物価高→インフレ、となって国民生活を直撃することが考えられます。従ってこの比率がこのまま悪化することは許されません。

国債依存率を下げるためには、普通は税収を増やす、または年金掛け金や健康保険料などの国民負担を増やし国の支出を減らすことが考えられます。この考え方で昨年の消費税引上げも行われました。しかし収入が増えない中で税率が引き上げられれば、家計は支出を抑え、その結果経済活動が低迷するのは確実です。事実昨年10月からの消費税2%引上げでこの状態が生じました。税率引き上げは経済活動が弱い日本では取るべき策ではありません。ではどうしたらよいか?

残された方策は1つです。それはこの10年間に輸出を倍増するとともに国内ではあらゆる分野で1人当たり生産性を倍増させることです。10年間と期限を切るのは、人口の老齢化が迫っているからです。これは、デービッド・アトキンソン氏が以前から著書で強く主張している内容とほぼ同じものです。アトキンソン氏は元ゴールドマン・サックスの著名な経済調査専門家です。英国出身で日本に30年以上住み、茶道にも通じ裏千家茶名を持っている日本通です。ゴールドマンの拝金主義に疑問を持ち退社、その後京都の文化財修復企業小西美術工芸社に入社し、現在社長兼会長を務めています。ここ数年で外国人観光客が3,000万人まで増加したのは、アトキンソン氏の提言が大きいと思われます。そういうアトキンソン氏が日本再生策として強く主張しているのが輸出の振興と国民1人当たりの生産性の向上です。

先ず輸出倍増についてですが、2015年当時の日本の輸出総額は6,240憶ドルと世界3位ですが、GDP比で見ると16%となり、世界でも低い順位となります(数字はアトキンソン氏の著作から引用。なので2015年度のデータ)。一方ドイツは1兆2,920億ドルでGDP比46%、お隣韓国は5,350憶ドルでGDP42%となっています。これらの国の人口を見ると、日本1億2,700万人、ドイツ8,180万人、韓国5,160万人ですから、国民人当たりで見るとドイツ15,800ドル、韓国10,371ドル、日本4,914ドルとなります。これから日本の輸出額が少ないことが分かります。私たちが若かった時代はmade in japanの製品が世界中に溢れ、そのために米国を中心に反発に会っていると思っていましたが、今では自動車以外世界でmade in japanを捜すのが難しくなり、反発どころか影の薄い存在になっています。

一方日本の労働者の質は世界4位と評価されているようです。何故こんなに高いランクになるのは不思議ですが、とびきり優秀な人は少ないけれど、どうしようもない人も少ないものと思われます。一方経営者を見ると日本は下位(50位代)にランクされていることから、アトキンソン氏は日本の低迷は経営者の質が悪いためと結論付けています。従って、日本の大企業の経営者を元日産会長のゴーンみたいな人に変えれば、日本はもっと成長できることになります。そんなことしなくても観光で外国人旅行者数を10年で約4倍の約3,200万人まで増やした努力を輸出でもすれば、10年で輸出を倍増することは難しくないと考えられます(これでも1人当たりでは韓国以下であり、アトキンソン氏はドイツ並みの3倍増が可能と言っています。)毎年各企業に10%の輸出増加を目標に掲げさせます。政府も通産省や外務省に輸出促進担当部署を作り、商談会の開催や売り込みを後押しします。また輸出増加によるその年の利益は法人税非課税とします。こういう努力を10年続ければ輸出額は倍増します。その結果、外貨の受取額が増え、円貨への交換により国内で流通する円貨が増大します。そしてバブル前のような経済状態となります。こうしてGDPが現在の560兆円から1,000兆円になれば、今期の国債残高約1,000兆円はGDP比100%程度となり、良好な数字となります。安倍政権はこの状態をインフレで実現しようしたようですが、これは邪道です。インフレ嫌いの日本人には馴染みません。

これ以外に企業や役所、農家でも従業員1人当たりの生産性を2倍にすることを目標に掲げ、業務の合理化、IT化、従業員教育を進めます。従業員教育では2つ以上の学士または修士などの取得を目標にします。オンライン教育を利用すれば可能です。日本人は全体に勉強不足であり、特に社会人が顕著だと思われます。会社に入ってから業務以外の勉強は何もしていない人が多いのではないでしょうか。これを解消すれば生産性向上に役立つばかりでなく、「民度」も上がると考えらえます。生産性向上の結果、所得は今の倍になりますので、やる方も実益があります。