次の検事総長は報道通りにはならないかも?

複数の新聞によると、稲田検事総長が7月に勇退し、次の検事総長は林真琴東京高検検事長になるという報道です。果たしてそうでしょうか?そうならない可能性もあると思います。何故なら次期検事総長を巡っての稲田検事総長と安倍内閣との間の確執は相当深刻だからです。

昨年安倍政権は、法務事務次官を通じて稲田検事総長に勇退し、黒川東京高検検事長と交代するよう要請したと言われています。当初稲川検事総長は了承したと言われており、黒川検事長が検事長定年となる2020年2月8日以前、2020年1月に交代する計画になっていたと考えられます。その後稲川総長は了承を撤回し、2020年4月京都で開催される第14回国連犯罪防止刑事司法会議を終えてから交代したいと言い出したと言われています。こうなると黒川検事長は検事長定年となり検事総長には就任できないこととなります。稲田検事総長はこれを承知の上で言い出したものであり、実質的に黒川検事長の検事総長就任に反対したことになります。そうなると次の候補は林真琴名古屋高検検事長でした。黒川検事長と林検事長は早くから将来の検事総長候補と目され、ライバル関係にあったようです。林検事長はどちらかと言うと検察現場に近い分野で活躍したのに対し、黒川氏は政府や国会対策の分野で活躍しています。黒川検事長は2010年に大阪地検特捜部で証拠改竄事件が起きた際、検察改革の検討会で事務局を務め、政府や国会議員から評価を高めます。

その後政府との調整や国会対策に当たる法務省官房長を約5年に渡り務めていますので、政府から余人を以て代えがたい人物という評価があったものと思われます。この頃の最大テーマは司法取引制度の導入を含む刑事司法改革関連法案の成立でした。この法案は2016年5月に成立していますが、この法案の議論が山場を迎えた2014年1月から2016年9月まで、法務省は稲田事務次官・黒川官房長体制で臨んでいます。ということは、稲田氏と黒川氏は刑事司法改革関連法案成立の戦友とも言える関係でした。この法案成立後の2016年9月、稲田事務次官は仙台高検検事長に就任し、後任の事務次官には黒川官房長が就任していますから、法案成立の論功行賞人事だと考えられます。この後稲田氏は1年後の2017年9月には東京高検検事長に、10カ月後の2018年7月には検事総長に就任しています。黒川事務次官は2019年1月に次の検事総長待機ポストである東京高検検事長に就任します。これで次は黒川検事総長が既定路線となりました。しかしそれを実現するためには、黒川検事長の検事長定年が2020年2月8日であることから、その前に稲川検事総長に勇退して貰わなければなりません。2020年1月に交代するとなると稲川検事長は2018年7月の就任から1年8カ月の任期となり、本人にとっては不本意です。それでも稲田検事総長は、2019年9月頃までは自分が検事総長までなった原因である刑事司法改革関連法案成立の戦友である黒川検事長に検事総長の地位を譲ろうと考えていたと思われます。この考えに変化をもたらしたのは、2019年9月の安倍内閣改造で河井克行議員が法務大臣に就任してからです。河井法務大臣は稲田検事総長に交代の確約を迫ったのではないかと考えられます。そうなると検事総長人事への政治の介入であり、悪例となります。またそれが悪評高い河井議員によってなされたことも我慢ならなかったと考えらえます。そこで河井議員の妻である案里議員の選挙違反の事実を捜査し、河井法務大臣を大臣辞任(10月31日)に追い込みます。また2020年1月には秋元衆議院議員を収賄容疑で逮捕し、検察人事への政治の介入を牽制しました。これにより黒川検事長の定年前の検事総長交代はなくなり、黒川検事長の検事総長就任の可能性は消えました。そうなると次の検事総長には林名古屋高検検事長が就任するものと思われました。しかしなんと安倍政権は検察庁法の解釈の変更によって黒川検事長の定年を半年延長してきたのです。そうなると黒川検事長の任期は2020年8月7日までとなります。一方林検事長はその前の7月30日に定年を迎えます。これにより黒川検事長がまた検事総長の最有力候補になったことになります。ただしこの検察庁法の解釈変更は、森法務大臣が口頭で決裁したことになっています。これは、稲川検事総長が署名しなかったことから書面決裁が出来なかったためと考えられます。ということは、黒川検事長の定年を延長しても、稲田検事総長としては、黒川検事長を後継検事総長に指名しないという決意だったと思われます。

その後安倍政権は検察庁法の解釈変更と言う違法状態を解消するため検察庁法改正案を通常国会で成立させようとしますが、予想外のツイッターデモの中、なんと火中の黒川検事長の賭けマージャンが報道され、改正を断念します。この国会が閉じた後の6月22日、検察は河井克行・案里議員を逮捕し、7月8日起訴します。辞任した黒川検事長に代わって東京高検検事長に就任した林検事長の次期検事総長就任が確定した旨の報道がなされたのはこの頃です。

しかし、私はそうはならない気がします。それは、稲川検事総長が交代を渋って、黒川検事長の定年により黒川検事総長の実現を潰したように、今度は政府が林検事総長の任命を渋って、7月30日の林検事長の定年により、林検事総長の実現を潰す可能性があるからです。稲田検事総長が次の検事総長として林検事長を指名し退任の申し出をしても、安倍政権としては7月30日までに承認しなければよいのです。稲田検事総長の退任の申し出は有効ですが、林検事長は定年となり、検事総長にはなれません。その後安倍政権としては別の人を検事総長に任命することになります。これで安倍政権としては検事総長の任命権を行使したことになります。ここでは誰を検事総長に任命することよりも、稲田検事総長の指名による検事総長を実現しないこと、安倍内閣として政治任命を行うことが重要なのです。これが起きる可能性大だと予想します。(この記事は先週書いたものです。)

 

(7月14日、次の検事総長は報道の通り林検事長が閣議決定されたと言う報道ですから、この予想外れです。しかし私は現在の検事総長が次の検事総長を指名する方式は廃止すべきだと思います。検事総長は法律上政府が任命することになっています。特に稲田検事総長は誤った判断によりゴーンを逮捕し、日産を経営危機に陥れると言う大失態を行っています。これは安倍首相も「(ゴーン問題は)日産の中で片付けてもらいたかった。」と言っていますので、同じ認識です。このような検事総長の指名をそのまま認めてはいけません。)