検察は司法取引の導入で立法権を手に入れたのか?

今年6月18日に河井克行衆議院議員とその妻案里参議院議員が逮捕され、7月8日起訴されました。容疑は広島の首長や市町会議員など100人に票の取りまとめの為2,901万円を提供した公職選挙法違反(買収)とのことです。二人の逮捕・起訴については当然と言う気がしますが、不思議なのは検察がお金を貰った方(被買収者)を1人も逮捕・起訴していないことです。公職選挙法では、買収目的で現金を受け取った側も同法違反(被買収)に問われます。法定刑は3年以下の懲役か禁錮または50万円以下の罰金で、罰金刑以上が確定すれば、公民権停止となり、議員は失職することになります。今回河井議員夫婦からお金を受取った首長、議員は40名以上いると言われており、法律をそのまま適用すればこの人たちは起訴されないといけないことになります。しかし誰も起訴されていません。今回の買収事件ではお金を受取った議員自ら公表しているケースが多くなっており、検察が取り調べの中で貰った事実を認め自ら公表すれば起訴しないと取引したのではないかと言われています。外形的にはそのように見えます。法曹人の中には、40人以上の首長や議員を起訴したら広島の政界が混乱することから、検察が配慮し起訴しないのではないかと推測する人もいるようです。

司法取引が使える犯罪は、贈収賄、談合、脱税、詐欺、横領、文書偽造、薬物犯罪や銃器犯罪などに限定され、公職選挙法違反事件には使えません。従って、取り調べの中で司法取引はできないし、容疑が事実であれば被買収者には公職選挙法がそのまま適用されることになります。刑法上の贈収賄には適用があって公職選挙法の買収には適用がないのはおかしい気がしますが、法律を作るのは国会議員であることからこうなったと考えられます。ただし行為的には重なることから、検察としては取調べの中で司法取引の主旨を援用し、同じような効果を出そうとしていると思われます。しかしこうなると検察が司法取引制度を拡大適用し、公職選挙法を被買収者は罰せられないと書き換えたことになります。これは実質的には立法行為であり、検察ができることではありません。

2018年11月日産元会長ゴーンを貰ってもいない報酬を有価証券報告書に記載しなかったとして逮捕した検察の動機は、その年の6月から使えるようになった司法取引制度のアピールだったと考えられます。そして河井議員夫妻逮捕・起訴でも司法取引制度が活用されています。これは司法取引制度が稲田前検事総長が法務事務次官のときに国会で成立したものであり、2018年7月に検事総長に就任した同氏が司法取引を活用するよう檄を飛ばしたものと考えられます。その檄がまだまだ効いており、検察では今司法取引が一種のブームになっているように感じられます。大阪地検特捜部の証拠改竄事件から10年経って、また検察がおかしな方向に動き出したと感じられます。