医学部入試で使わない数学が必須科目なのはなぜ?

医学部入試ではどこの大学でも数学は必須科目とばかり思っていましたが、選択科目の大学もあるようです。それは帝京大学医学部と昭和大学医学部です。帝京大学医学部は以前から英語が必須で、それに理科(物理・化学・生物)・数学1A2B・国語の中から2科目選択の計3科目、昭和大学は2021年度入試から英語と理科2科目が必須で、国語か数学の選択で計4科目の試験となるようです。帝京大学医学部の狙いは、優秀な文系学生や社会人の取り込みのようです。この科目なら国立文系なら難なく対応できます。国立文系進学者は、数学と物理が障害となって文系を選択している人が大部分です。生物や化学はどちらかと言うと暗記系でそれ程障害にはなりませんし、高2までの数学なら何とかなります。従って、この入試科目なら医学部入試に挑戦したい文系進学者は多いと思います。そして東大、京大、一橋大などの文系進学者なら、これまでの医学部進学者を押し出して合格する可能性が高いと思います。ただし、私大医学部の場合、入学金や授業料が高いことが障害になると思われます。

帝京大学医学部や昭和大学医学部のような入試科目が国立大学医学部で可能となれば、先ほど挙げた大学を中心に文系進学者が医学部入試に押しかけます。その結果、医学部入試がさらに難化するとともに、入学者の雰囲気が変わると思われます。高校から理系選択者の場合、どうしても科学的思考が強く、人間的面白みや温かさに欠ける人が出てきます。文系人間の場合、科学的思考よりも社会的思考が勝っており、そのため患者にとっては文系的医者の方が良い医者になる可能性が高いと思われます。

実際医者に掛かって、医者が数学を使っていると感じる場面は殆どありません。私は仕事の関係で医学部教授にお話を聞く機会が何回かありましたが、数学的話は殆ど出てきませんでした。また医学の学術大会にも何回か出席し講演を聞きましたが、プレゼに難解な数式が出て来ることは殆どありませんでした。もちろん医学ではエビデンスが重視されますから、数字は良く出てきます。しかし、統計データに使う簡単な数字で、高度な数学的知識は必要ないものでした。従って、画像診断や手術ロボットの開発など工学部と重なる医学研究者を除けば、医者(特に臨床医)には理系としての数学(高校3年次までの数学)は必要ないと思われます。

そのことは大学医学部や医学界は十分知っているのに、なぜ帝京大学医学部や昭和大学医学のような入試(数学は選択科目とする)は増えないのでしょうか?

それは、文系は理系脱落者の進学先であり、理系は全能者の進学先である、そして理系の中で一番優秀な人材が集まるのが医学部であるということを証明するためには、他の理系学部と同様数学を必須科目とする必要があるからです。これを除けば、医学部は文系学部の最高峰に成り下がるのです。だから、医者には殆ど必要がない数学は今後とも殆どの医学部入試で必須科目であり続けると思われます。