孫社長が携帯電話事業から逃げ出している?
8月28日ソフトバンググループ(SBG)は、携帯電話事業を行うソフトバンクの株式10億2,800万株の売り出しを行うと発表しました。これはソフトバンクの発行済み株式の約22%に当たります。これによる獲得資金は28日終値ベースの株価で計算すると、1兆4,700億円になるということです。現在SBGはソフトバンク株式の約62%を保有していますので、売り出しの結果これが約40%に減少し、ソフトバンクはSBGの子会社ではなくなります。
SBGはビジョンファンドの赤字を埋めるためや手元資金を増やすため並びに自社株買いのために保有株式4兆5,000億円の売却計画を進めており、既に約4兆3,000億円の現金化を実現しています。従って、今回のソフトバンク株式の売却は新たな意図があってのことと思われます。
その意図としては新たな買収先計画の発生が考えられます(米国TikTok事業の買収に関与との報道もあった)が、これには米国のいくつかの企業が候補に挙がっており、SBGが買収できる可能性は低いと考えられます。もう1つは携帯電話事業の伸び悩みを見越して手放しにかかっていることが考えられます。SBGは2018年12月にソフトバンクを上場させましたが、2018年8月には菅官房長官が携帯料金は4割値下げの余地があると発言し、今後値下げの方向に向かうことが明らかになりました。もちろんSBGはその前からソフトバンクを上場させる準備をしていたわけで、この菅官房長官の発言が上場の契機になったわけではありません。そして最近また菅官房長官が携帯料金は未だ十分に下がっていないと発言しており、今後値下げ圧力が強まる方向にあります。制度的にも今年の6月日本通信が求めた総務大臣裁定で認められていた通話回線の卸料金の値下げが電気通信紛争処理委員会で承認され、今年の12月頃から実施になると言われています。また総務省は番号持ち運び制度(MNP)の手数料を現在の3,000円から原則0とする方針を示しました。これも競争促進的に働くのは間違いないと思われます。それに今年4月から楽天モバイルが第4の携帯キャリアとして営業を開始しましたが、未だ自社中継局の割合が少なく、来年3月まで料金無料としています。その結果、楽天モバイルの契約者は、既存3社と契約したまま2代持ちの状況にあると思われます。しかし来年4月以降は、少なからず既存3社との契約を止め楽天モバイルに移る顧客が出てきます。これに通話回線使用料が下がる格安ブランドとの競争も加わり、既存3社は相当の影響を受けることは不可避です。孫社長はこれを見越している可能性があります。今期が収益のピークで、株価が高い今が売り時と考えたのかも知れません。
いずれにしても携帯電話事業は孫社長にとって魅力的な事業ではなくなったのは事実であり、今後携帯料金の値下げが急速に進みそうです。