消費税増税を言うより輸出倍増に注力した方が良い
9月10日菅官房長官(現首相)は将来消費税引上げがあり得ると発言したようです。よくもこんな経済状態の中で言えるなと思っていたら、本人もこの発言の及ぼす悪影響に気付いたようで、翌11日には「今後10年上げる必要ない。」と打ち消しました。10日の菅官房長官の発言は、将来とも消費税は引上げないというと国民に甘言を弄してると思われるのが嫌で言ったものと思われます。しかし、将来でも消費税引上げがあり得ると言えば、コロナによる所得減少で苦しむ国民の中には選挙で自民党に投票しない人が出て来ることは容易に予想出来ます。菅官房長官の良さは、ふるさと納税やインバウンド観光など一点突破型の実行力であり、有権者の懐柔は不得手のようです。
9月16日に菅政権が誕生しましたが、菅首相の経済運営としては、GDP倍増政策以外選択肢はありません。今年末の国債残高は1,000兆円を超えると言われており、これは日本の昨年のGDP約550兆円の約180%となります。世界の先進国では悪くても100%くらいであり、日本は先進国中最悪の状態です。これは、国家予算で国民から徴収する税金などの歳入を上回る歳出が行われており、その不足原資を借金で調達していることを意味します。歳出では医療費や年金などの社会保障費が約35%を占めており、国は借金して国民の医療費や年金などを支援していることになります。従ってこの状態を緩和するために消費税を引き上げようという議論が起きます。しかし、所得が増えない中で消費税を引上げれば、国民は消費を抑制しますから、経済活動が低迷します。昨年10月の消費税2%引上げにより消費は5%以上低下しました。安倍内閣で消費税は5%引き上げられ、その他年金積立額や健康保険料などの公的負担も引き上げられています。その結果、個人の所得に占める公的負担割合は45%を超えていると言われています。これは所得の半分近くが公的負担として差し引かれるということであり、国民は残りの半分で生活していることになります。このため庶民の生活はぎりぎりの状態であり、消費税が引き上げられたら消費を抑えるしかないのです。これもそろそろ限界に来ています。
となると、政府としての残された政策としては、所得を増やすしかないことになります。これはマクロ的にはGDPを増やすことです。安倍政権が掲げた「経済成長なくして財政再建なし」というスローガンは正しいのです。菅官房長官もこの路線を踏襲すると言っていますので、将来の消費税増税の可能性に触れる必要は全くなかったのです。GDPを増やすことができれば、個人所得が増加し、所得税などの税収が増加します。その結果、消費税への依存率は低下します。これが分かれば、菅首相としてはGDP増加を目標に掲げればよいことが分かります。
そこで菅政権としては10年でGDPを倍増することを経済運営目標に設定します。これは個人所得を倍増させるという目標でもあります。もしこれが実現できれば、税収は倍になり、国債依存率は100%程度に低下します。
問題はGDP倍増の方法です。確実に効果を出せるのは輸出の倍増です。2017年のデータによるとドイツの輸出総額は14,010億ドルでGDPに対する輸出額の割合は46.1%、韓国は5,773憶ドルで42.2%です。これに対して日本は6,883憶ドルで16.0%です。日本の順位は世界118位です。ドイツ人口は日本の3分の2、韓国の人口は日本の約半分ですから、国民1人当たりにすると日本の輸出額は韓国の約1/2、約ドイツの1/3ということになります。輸出割合の多いドイツと韓国は国の財政も豊かで国債依存利率は数十%です。即ち、輸出の割合が高ければ外貨が国内通貨に転換され、国内通貨の流通量が増加し、金融緩和と似た状態になります。これが金融緩和と違うのは、輸出企業が潤い、雇用者が増加するということです。その結果、雇用者の所得が増え、好景気となります。韓国がこの状態であり、OECDの2018年度のデータによると国民1人当たりGDPは日本41,501ドルに対し、韓国は42,135ドルとなって、韓国が日本を抜いています。
かってはメイドインジャパンの製品が世界を席巻していましたが、今では世界で目立つ日本製品は自動車くらいしか無くなりました。テレビなどの電化製品や半導体、造船、鉄鋼などの輸出は韓国に取って代わられています。これは1980年のバブルにより、メーカーよりも楽して儲かる金融や不動産に優秀な人材が流れ、メーカーの開発力や生産力が落ちたためと考えられます。今の金融や不動産の原資はメーカーが輸出で稼いで円貨に転換された資金であり、今の国内資産は1980年代までのメーカーの輸出が作り上げたものです。従って、輸出を強化すればまたかっての好循環が蘇ります。私たちの頃学校では、日本は資源が少ないから資源を輸入しそれを加工して輸出する加工貿易で生きて行くしかないと教えていましたが、いまでは教えなくなっています。しかしこれは今でも真実です。
菅官房長官は元ゴールドマンサックスの調査部長であるデービット・アトキンスと懇意であり、インバウンド観光の振興策はアトキンス氏の提言を採用したものと聞きます。私の輸出倍増論もアトキンス氏の書著から多大な影響を受けているものです。是非菅内閣の補佐官にアトキンス氏を任命して輸出倍増政策を実施して頂きたいと思います。