左遷された元官僚のおかしな主張

菅首相が誕生し、人事を使った官僚操縦が注目されています。安倍首相は気が合う官僚を重用し、重用した官僚は必ず昇格させるなど依怙贔屓が露骨でしたが、菅官房長官はそんなに露骨なことはしていません。気になった人事とすれば、和泉補佐官のスキャンダルを不問に付したことくらいでしょうか。

菅首相になってマスコミは、菅首相が総務大臣時代にふるさと納税を実施した際にこれに反対した官僚を移動させた件を盛んに取り上げています。そして移動になった(左遷と書かれています)官僚もまるで悲劇のヒーローのようにいくつかの新聞のインタビューに答えています。その中でその官僚は、反対しても不利益を受けない制度が必要だと述べています。私は組織人経験者として、言っている意味が分かりません。組織のトップが変わり、そのトップが掲げる方針に従えない人は、移動するのが当たり前です。そうでないとトップの方針は実現しません。実現しなかったらトップが変わった意味がありません。民主主義国家はトップが国民の多数の意思で変わることが最大のメリットであり、それに伴い政策が変わることに意義があります。公務員がトップの政策に反対したら、政策は実現できないし、民主主義が意味をなさないことになります。それを理解していて、あえて反対したのでしょうから、移動は覚悟しておく必要がありました。「いや覚悟していなかった、このままのポジションに留まれると思っていた」または「もっと序列の高いポジションに就けると思っていた」というなら、それは幼稚過ぎます。

私も民間企業に30年居ましたので、何回か左遷された経験があります。それは上司の政策に反対したからではなく、上司が私のことを嫌いだったからでした。それでも私には不満はありませんでした。そんな上司の元で仕事をしても仕方ないと思っていたからです。左遷されたら「くそ、いつか見返してやる」と頑張るのが普通で、いつまでも左遷された恨みを誰かに話すものではないと思います。そこが一番不思議です。

この官僚は、公務員の身分保障を左遷されない権利と考えているように思えます。公務員の身分保障は業務を正常に執行した結果であればどのような結果になっても職を失うことはないということであり、上司の政策に反対であっても職場を移動させられることはないということではありません。この官僚の場合、資格を下げられているわけではなく、暫く別の職場に居てということです。また別のトップが来たらメインストリートに返り咲ける可能性が残されています。このようなことは民間ではよくあることであり、社会的に許容されていると思われます。この官僚が「反対しても不利益を受けない制度が必要」という主張は、公務員の身分保障制度の誤った運用から来ています。不祥事があり処分されれば、会社員の場合、先ず取返し不能となりますが、公務員の場合、痛くも痒くもない処分になっています。それは森友学園事件で処分を受けた財務省の官僚がすぐ昇格したことが示しています。これからすれば「反対したくらいで不利益を受けるのはおかしい」ということになります。これは処分に効果がないという方を改めるべきなのです。処分の効果について民間と公務員で差を付ける必要はなく、むしろ公務員の方を厳しくしないといけません。公務員制度におけるおかしな身分保障を見直す時期に来ています。