人事院勧告、給与・賞与の原資は何?

10月7日に人事院が国家公務員の今年の年間賞与を去年から0.05カ月減らして年間4.45カ月とするよう勧告を出してから、地方自治体の人事委員会も相次いで同様の勧告を出しています。人事院の勧告は昨年の企業の賞与と比較して出していましたが、地方自治体は今年の民間賞与の状況を勘案して出したということです。民間では冬の賞与削減の報道が相次ぐ中で、なぜ前年並み(0.05カ月減は前年の98.9%)となるのか不思議でなりません。人事委員会の説明の中に「民間ではコロナの影響はあまり出ていない」というものがあったのには驚きました。どこの国の民間企業を調べたのでしょうか?完全に現実から乖離しています。人事委員会の職員も公務員であり、自分たちの賞与となると理性を失うようです。

人事院は10月28日に公務員給与についは据置の勧告を出すとの報道です。これも数年ぶりとか言われていますが、ちょっと信じられません。民間ではANAが給与の3割カット(賞与は0)を発表したように、これから給与のカットが相次ぎます。それと当時にリストラの嵐が吹き荒れます。それは今期歴史上稀に見る赤字になるために、給与の支払い原資がなくなるからです。当然の帰結です。

一方公務員の給与や賞与の原資は税収ですが、今年の税収は国、地方とも大幅な落ち込みが予想されます。私の予想では国の税収は50兆円を切ってもおかしくないと思います。前年が約62兆円ですから、約20%の減少です。公務員の給与や賞与の原資には、所得税や法人税が宛てられるでしょうから、こちらはもっと減少幅が大きいと思われます(消費税は福祉など別目的)。従って、給与や賞与の原資が20%以上減少することが予想されますので、給与の削減は避けられません。原資が減る中で現状維持ということは、公務員給与の支払いのために赤字国債を発行するよう国に求めていることになります。これは国債の使途としておかしいでしょう。

このように人事院が給与や賞与の原資を考えていれば、賞与で0.05カ月減、給与は据置と言うような勧告は出てきません。こんな勧告が出て来るのは、人事院が原資のことを考えずに給与や賞与の勧告を出しているからです。国の一機関なのですから、国の収入に目配りし、原資を考えて勧告を出すのが当たり前です。これがなされていない人事院勧告は、家庭で子供が小遣い上げてと言うのと同じレベルです。

これは地方自治体の人事委員会でも言えます。地方自治体の場合、1人当たり都道府県民所得は最高の東京都と下位の県では2倍以上違います。そのため自治体公務員の給与や賞与の原資である税収はそれ以上違いますから、公務員給与や賞与にも相当の差があるのが当然なのです。しかし、自治体の公務員給与は低いところでも国家公務員と5%程度の差しかありません。税収の少ない自治体には国が支援して公務員給与をほぼ同一の水準にしていることになります。これを民間で言うなら、利益が少なく安い給与しか払えない会社に利益が多い企業が給与がほぼ同一になるよう支援することを意味します。これがありえないことは誰だって分かるし、これでは競争は起きません。自治体の公務員の場合、給与を上げるには税収を上げるしかなく、そのためには都道府県民所得を上げることが必要であり、公務員はそのために懸命に努力することになります。公務員の給与の原資が税収であることを明確にしていない現在の制度では、都道府県民所得の向上は公務員の目標にはなりえず、従って都道府県間の競争が起きません。

そもそも公務員組織である人事院や人事委員会が公務員の賞与や給与を勧告する制度自体がおいしいのです。これは会社で言えば労働組合が給与や賞与の勧告を行うようなものです。学術会議委員の任命に関する慣行を破った菅政権には、こうした間違った人事院の勧告制度も破って頂きたいと思います。少なくとも人事院にも勧告に当たって賞与や給与の原資についても考えさせる(勧告に原資についても入れさせる)ことが必要です。現在の勧告はこれが考えられていないとして突っ返し、再提出させるのがよいと考えられます。くれぐれも公務員には自助や共助はなく、あるのは公助だけということにならないようお願いします。