携帯料金値下げ空振り、菅政権にとって致命傷になる

10月28日、政府の携帯料金値下げ要請に対してソフトバンクとKDDIは、それぞれワイモバイルとUQモバイルにデータ容量20Gバイトの料金を設定すると発表しました。ワイモバイルが4,480円、UQモバイルが3,980円の料金を設定しています。ワイモバイルは、これは従来データ容量50Gバイトの料金8,280円と比較すると約45%安いと言っています。

これが誤魔化しなのはネットで批判されている通りです。多くのユーザーのデータ使用量は10Gバイト未満であり、10~20Gバイト使う人の割合は少ないはずです。ソフトバンクもKDDIも利用量が最も少ない容量帯を狙って料金を下げてきたということです。むしろ狙いは20Gバイトの料金にお得感を出して、10Gバイト未満のユーザーの移行を狙っていると考えらます。この狙い通り行けば両社の収入は減らず、むしろ増加すると考えらます。両社は通信料の国際比較で遜色のない料金になったと言っていますが、問題は営業利益率20%という高さです。これが電力企業並みの5%程度になるまではこの問題は解決されません。20%の営業利益率を容認すれば今後多くの公益企業が営業利益率20%を目標にします。そうなれば家計は破綻します。

両社の値下げ発表を受けて、武田総務大臣が「(両社は)しっかり対応した」というコメントを発表したのにはびっくりしました。家計の負担減少に繋がらないことは明確なのに、このコメントはないと思います。武田大臣は大臣就任当初「1割の値下げでは改革にならない」と述べています。これからすると「馬鹿にするな!」という怒りのコメントになるはずです。両社の値下げプランの発表前日、武田大臣は総務省のアクションプランを発表しており、両社の値下げは総務省と打ち合わせての上行われたことが伺われます。総務省のアクションプランによると、今後格安携帯などへの乗り換えが進み料金は下がって行くとなっていますが、これには大きな誤魔化しがあります。先ず携帯3社の料金が下がらない上に、乗り換えの候補先である格安携帯の料金も下がらないように箍をはめているということです。通信回線を持つ携帯3社から格安携帯会社への貸出料を今後3年掛けて2019年度と比べ半額にするとなっていますが、これは高市前総務大臣が就任わずか2カ月後に探し出した携帯料金値下げの妙案を後退させるものです。高市前総務大臣は今年半額に落とすことを想定していたと思われます。そうでないと格安携帯の料金が余り下がらず乗り換えが進まないからです。携帯3社は回線使用料を高めに設定し、格安携帯が料金を下げられないようにして乗り換えを防いでいます。単なるMNP手数料3,000円の問題ではありません。結局MNP手数料3,000円は撤廃したけれど格安携帯の料金が余り下がらず乗り換えが進まないと言う結果になります。また、現在のユーザーの契約は殆ど旧2年縛り契約であり、途中解約には9,500円など高額の違約金がかかります。違約金が1,000円で済むのは乗り換えたユーザー(新契約のユーザー)のみです。携帯3社から2年の契約期間終了を知らせる通知は来ないので、ユーザーは契約期間が終了したことを知らないことが多く、その結果自動更新となり旧契約が継続することになっています。この9,500円と言う違約金が乗り換えの大きな障害になっているのです。新契約で途中解約の違約金が1,000円とされたのは、旧契約の9,500円が不当に高いとみなされたからであり、本来なら旧契約でも1,000円に下げないといけないのに、総務省官僚が携帯3社のためにそのままにしています。このように携帯3社と総務省官僚の連携の元、格安携帯への乗り換えが進まないよう要所要所に障害を設けているのです。これらを完全に撤廃しない限り乗り換えは進みません。

菅政権は、携帯料金の4割値下げという国民の生活に直結する公約で高い支持率を得ています。もちろん菅首相が本当にやりたいことは成長戦略や行政のデジタル化にあると思われます。しかし成長戦略は成果が出るのに時間がかかるし、デジタル化は国民の生活には直結しません。これらを成果として国民が実感できるようになるには2,3年掛かります。来年には総選挙があり、菅政権はそれまでに結果を出して有権者の支持を得る必要があります。コロナの影響で収入が激減し生活苦にあえいでいる人が増えています。また今後大リストラが予想され、失業者が増加します。その結果、来年の総選挙では野党に投票する人が増加すると考えられます。それを防ぐには携帯料金の大胆な値下げ(またはNHK受信料の値下げ)を実現するしかありません。菅首相は携帯料金の4割値下げで生活者の期待を煽っただけに、実現しない反動は大きく、菅政権の致命傷となります。