NTTを携帯料金のプライスリーダーにすべき

菅首相が重要政策に上げるほど国民の生活に重くのしかかるようになった携帯料金ですが、なぜこのような事態になったのでしょうか?それは公益事業としての携帯料金にプライスリーダーがいなかったからだと思われます。

日本の通信サービスは長い間電電公社が担ってきましたが、1985年に民営化されました。そして1992年には携帯電話サービスを行うドコモがNTTから分離されました。旧ソフトバンクがボードフォンを買収して今のソフトバンクができたのが2006年です。KDDIは2000年に誕生しています。このように携帯電話事業会社が3社になってから、まだ20年も経っていません。ソフトバンクがボーダフォンを買収したときには、ソフトバンクが安値競争を仕掛けて料金は下がり続けるとばかり思っていました。確かに最初は価格競争を仕掛けてシェアの拡大を図りましたが、あるときから「シェアはそのままにして一緒に儲けようよ」となりました。それはソフトバンクが呼びかけ、他の2社が応じた構図と思われます。この結果携帯電話は、家計から現金を吸い上げるポンプ化しました。一番シェアが低いソフトバンクで営業利益が5,000億円を超えて、毎年5,000億円近い現金が余るのですから、笑いが止まりません。ソフトバンクはこのあり余るキャッシュフォローを使い、英国アームを約3兆3,000億円、米国スプリント約2兆4,000億円で買収しました。これは日本の家計から吸い上げた携帯料金がなければ実現していません。これにより日本の家計の資金約6兆円が海外に流失したことになります。KDDIも買収を繰り返していますが、これは国内の通信に関連する事業を対象にしていますので、資金の海外流失はありません。

ソフトバンクの「シェアはそのままにして一緒に儲けようよ」という呼び掛けに応じたことは、携帯3社にとっては大正解だったことになります。たぶん歴史上これだけ寡占の旨味を享受した例はないと思います。従ってこれは公正取引委員会の歴史に残る怠慢でもあります。公正取引会としては、通信行政は総務省の管轄であり、自分らの仕事ではないと言う意識があったのかも知れませんが、寡占の弊害の防止・除去は公正取引委員会の役割であることは間違いなく、公正取引委員会の責任は重大です。

この経緯の中ではドコモがこれに応じたことが問題だと思われます。ドコモはシェアを落とし続けていたことから、これでシェア低下を止められると考えたのでしょう。そして膨大な利益が生まれるのですから、断る理由がありません。その結果、いつの間にはドコモが中心となった寡占体制になったと思われます。本来業界トップ企業はこのような露骨な寡占には与しないものですが、ドコモはいつの間にか寡占のリーダーとなりました。それはドコモの大株主はNTTであり、NTTのように政府が株主に入っていなかったからです。政府が株主に入っていれば、ソフトバンクの呼び掛けには応じなかったと思われます。今回ドコモはNTTに統合されることとなりましたが、これでNTTの完全な統制下に入ることになります。その結果これまでのような3社協調による寡占体制の維持はできなくなるでしょうし、携帯料金はドコモが中心となって下がると考えられます。

やはり公益事業には、公益体質のあるプライスリーダー企業が必要です。今回のNTTによるドコモ買収はドコモの反社会的行為に対してNTTが責任を取ったものであり、賞賛に値します。政府としては今後NTTに通信料金値下げのプライスリーダーの役割を求め、代わりにNTTが世界的通信競争力を持つようNTT東西を合併させ、強いNTTを作ることを支援すべきだと思われます。これに対して旧NTTの復活との批判が出るでしょうが、通信自由化に名を借りた国民搾取よりましです。公益事業にはプライスリーダーとなるしっかりした公益企業が必要です。