NHK受信契約拒否に割増金、放送法の違憲性を浮き彫りにするだけ
総務省は11月20日NHKの在り方を検討する同省の有識者会議で、テレビを持っているのに受信契約を結ばないで支払いを逃れている人には割増金を課す制度を法制化する方針を決定したとの報道です。「NHKの在り方を検討する有識者会議」は今年の4月に当時の高市総務大臣の肝いりで設けられた会議で、その趣旨は昨年の7月の参議院選挙で「NHKから国民を守る党(N国党)」が1議席を獲得して顕在化したNHKに対する不満の解決を目指したものでした。しかし菅政権が誕生し高市総務大臣の退任が決まってからすっかり総務官僚の政策を正当化する機関に変貌したようです。高市総務大臣の退任が決まるとNHKは今年2月にしたネット放送の予算を受信料収入の2.5%以内とするという約束も反故にしましたし、その後有識者会議にテレビ保有者に届け義務を負わせるよう要望しました。これは最初から契約拒否者への割増金の法定化が狙いだったと思われます。
総務省が設置する有識者会議は、携帯料金値下げに関する有識者会議を見れば分かるように、業界関係者を集めた会議となっており、最終的には主張が錯綜し現状維持になるような仕組みとなっています。「NHKの在り方に関する有識者会議」も、結局NHKから利益受けるメンバーで構成され、NHK制度の変更を伴う提言はできないようになっていたと考えられます。ただし高市総務大臣は、有識者会議にNHKの大幅な見直しに繋がる提言を期待していたと思われます。
この結果出てきた有識者会議の提言は、基本的には現状維持であり、NHKのために受信契約拒否者に割増金を課すことを法定化し、NHKには剰余金の一部は値下げに回す仕組みを作るように提言しています。
この提言には大いに問題があります。先ず受信契約拒否者への割増金の法定化ですが、これは放送法が違憲であることを改めて浮き彫りにします。憲法においては個人の意思は最も尊重されなければならないとされています。憲法は個人の意思に制約を加えることを極力認めていません。例外的に認めているのは、刑事罰を受けること、義務教育を受けること、納税義務くらいです。その他に公共の福祉に反する場合の制約(土地の強制収用など)は認めていますが、意思に反して契約を結ばせることは許していません。それは結婚を考えれば分かります。結婚はひとえに男女の意思で決まるものであり、意思に反する結婚を強制する法律が認められないことは誰も異論がないと思います。これが個人の意思が憲法上最も尊重されている象徴と言えます。
ここで放送法を考えると、テレビ受信機を購入し受信できる状態にしたらNHKと受信契約を結ばなければならないとしています。NHK放送を見るのならば受信契約を結ぶのは当たり前ですが、見ないのに契約を結ばせることが個人の意思の尊重に反することは自明のことです。これは好きでもないのに婚姻届け(結婚契約)に押印させるようなものです。従って普通に考えれば放送法の受信契約を強制する規定は違憲で無効ということなります。しかし、2017年12月最高裁はこれを合憲としました。この判決は、最高裁判所が法の最高機関のしての使命を放棄し、NHKの存続を優先したものです。今後受信契約拒否者に割増金を課す法律が制定された場合、この規定が憲法違反であるとの訴えが法廷に持ち出されることになります。2017年に合法とされたのだからまた合法となると考える人が多いと思いますが、今度は違憲と判断される可能があります。そもそも違憲なのですから、最高裁の判事が法律家としての使命感を取り戻せば違憲判決となります。2017年の判決で最高裁は、違憲と判決すればNHKが潰れることを慮って合憲と判決したのですが、違憲と判決してもすぐ放送を停止する必要はなく、一定の期間内に新しい公共放送制度を作ればよいのです。その場合、スクランブル化か、公共放送を縮減し運営費を税で賄うかしかありません。
2つ目に剰余金を値下げの原資にするよう提言しており、報道ではその剰余金としてNHK本体の1,213億円が挙げられています。しかし子会社にも870億円の剰余金があり、これは受信料を子会社に振り替えたものです。従って本体と子会社の剰余金を合わせた2,083億円が値下げの原資となるはずです。これなど有識者会議はわざと指摘しなかったと思われ、モラルが問われます。
NHK問題は受信料値下げで解決できる問題ではなく、総務省が設ける有識者会議では手に負えなくなっています。菅首相のトップダウンによる解決が必要です。