ドコモ総務大臣裁定を履行せず、通信回線を保有会社に分離すべき

日本通信は12月30日、NTTドコモとの間で進めていた音声通話卸料金に関する協議が総務大臣が指定した期日である12月29日までに終了しなかったと発表しました。

これは今後の携帯電話料金値下げの障害になる重大なニュースです。経緯はこうです。

日本通信は2019年11月15日、総務大臣に対し、NTTドコモから提供を受ける音声通話サービスの卸料金について、電気通信事業法に基づく裁定を申請しました。これはドコモが自社ユーザーに「かけ放題オプション」「5分通話無料オプション」を提供しているのは通話の回線コストが相当低下しているためなのに、日本通信に対する回線の卸料金は長い間低下していない、卸料金を実態に応じた料金に下げて欲しい、と言うものでした。これに対して総務省は2月4日、ドコモに対して音声通話サービスの卸料金の見直しを促す裁定案を電気通信紛争処理委員会に諮問しましました。その後、同委員会は6月11日までに、総務大臣に対して当事者(日本通信とNTTドコモ)から意見を聞いた上で裁定を行うよう答申しました。この答申を受けて総務大臣は6月30日、当事者に対して正式な裁定を行っています。この裁定では、ドコモに対して「裁定を行った日から起算して6月を超えない期間内」、つまり12月29日までに「新たな料金を設定する」ように命じています。日本通信によると、ドコモは12月29日までに新たな料金を提示しなかったということです。一方ドコモは、日本通信の要望に応えるためには6カ月以上の期間が必要であると主張し、代替措置(プレフィック接続。電話番号の頭に155などの番号を付加する。)を提案していたということです。

先ずこの日本通信による総務大臣裁定の申請は2019年9月の安倍内閣改造により高市総務大臣が再登板してからわずか2カ月後になされたものです。ということは携帯料金値下げの使命を帯びて総務大臣に就任した高市総務大臣の秘策だったと考えられます。そのため2月には日本通信の要望に沿った裁定案を電気紛争処理委員会に諮問しています。本来なら電池通信紛争処理委員会の答申は3~4月頃には出る計画だったと思われますが、コロナの影響で6月になってしまいました。それでも高市総務大臣は6月にはドコモに見直しを命じています。2018年8月に菅官房長官が携帯料金の4割値下げを求めたにも拘わらず、携帯3社の抵抗によって全く下がらなかった携帯料金を下げる重要な一手になると考えられました。しかしその後9月に菅首相の誕生により高市総務大臣が武田総務大臣に交代になったことから風向きが変わりました。武田総務大臣は口では威勢がよいのですが、通信行政は素人であり高市総務大臣のような妙手を持ち合わせていません。そこでドコモ(NTT)は、ドコモのNTTへの統合、ahamo発表による料金値下げのポーズによって武田総務大臣は懐柔できたとみて、今回の無回答=裁定拒否になったものと思われます。

裁定は6か月内に新たな料金を設定するように命じていますから、料金算定には6か月以上の時間がかかるというドコモの言い分は裁定違反以外の何物でもありません。それに回線コストは常に把握されており、新たに算定し直す必要は全くありません。だから裁定を守る気さえあれば間違いなく回答できました。回答しなかったということは総務大臣裁定を愚弄したことになります。経営会議で「あんなものほっておけ」と決まったのでしょう。

こうなると武田総務大臣としては速やかに回答するよう命じることになると思われますが、ドコモは高い卸価格を提示する可能性が高いと思われます。ここは武田総務大臣から大きく下げた卸価格を指示するしかないと思われます。

ドコモがこんな遅延作戦を採る目的は2つあります。1つは、総務省の発表ではMVNOに対する卸料金は3年間に今の半分に下げるとなっており、まだ下げられていません。従って日本通信に対する卸料金もこれが下げられるまで引っ張れると考えていることです。もう1つは、ahamoは3月から開始する予定となっており、それまでに日本通信がこれより安い料金プランを出すのを防ぐためです。

携帯3社の儲け過ぎの根本原因は、通信回線を独占し、MVNOには高値で貸出し、MVNOが安い料金を設定できないようにしていることにあります。更にY!モバイルやUQモバイルという子会社のMVNOを置いてその他の体力のないMVNO潰しを行っています。今後携帯電話業界の競争を活発化するためには、携帯3社とMVNOが同じ条件で競争できる環境が必要です。そのためには、携帯3社の通信回線を通信回線保有会社に分離する必要があります。これに踏み込まない限り携帯3社の家計収奪は終わりません。