睡眠導入剤混入事件、今の監督体制では又起きる
福井県あわら市の小林化工(以下同社)が製造した爪水虫などの治療薬、経口抗真菌剤イトラコナゾール錠50「MEEK」に睡眠導入剤の成分が混入した問題で、国の承認外の製造手順書に基づいて製造していた可能性があるということです。福井県からの情報ということですから、証拠が見つかったということだと思われます。
この問題が発生した原因について会社は、若い作業員が1人で作業をする時間帯があり、そのとき決まった作業手順を守らなかったからのように発表していますが、それが根本的原因ではないことはメーカーに勤めた経験のある人なら誰だって分かります。通常若い作業員には問題が起きる可能性がある作業工程は任せないし、ベテランがチェックするようになっています。それも医薬品の製造工程なら尚更です。これが同社ではなされていなかったということです。
医薬品については承認された製造工程で、承認された手順書に基づいて製造されなければならず、今回睡眠薬の混入があったイトラコナゾールの製造についても福井県の医薬品・食品局が2004年に立ち入り検査し、これを確認していたということです。承認後の順守責任は会社になりますが、メーカーでは決まりがあっても守られなくなることが良くあります。それは監督者や作業者が交代し、習熟していない人が加わるからです。それも二重三重のチェック体制が機能していれば良いですが、監督機関の監視が甘いとそんなコストのかかる体制は取りません。まさにここに今回の問題が生じた根本原因があります。即ち、今回の問題は、監督機関の監督の甘さが原因となって発生したものです。具体的には、紙に書いた製造工程や手順書をチェックするのみであり、その通りに実際に製造されていることを確認していない点に問題があります。この問題を解決するには、福井県の杉本知事も言っているように、抜き打ち的な製造工程の監査が欠かせません。それには熟練した監査者が必要であり、医薬品メーカーが少ない県では単独でこの要員を抱えるのは難しいと思われます。そこでこの監督業務は一元的に国の機関で行うこととし、そこに熟練した要員を抱える必要があります。イメージとしては厚生省の麻薬取締班です。抜き打ち監査、従業員からの内部通報の受付、工場への潜入監査も可能とします。これくらいしないと医薬品の安全性は守れません。新薬開発メーカーの医薬品の場合、新薬の開発過程で製造方法についても十分な検討がなされ、製品は臨床試験で検証されますが、ジェネリック医薬品の場合、特許が切れた医薬品原料を用いて製造するのみであり、医薬品としての品質や効果を心配する医師も少なくありません。従って、新薬メーカーはさておきジェネリック薬メーカーの製造工程については厳しい監督が不可欠です。
今回この問題については、同社に問題があったという報道一色で、行政側の監督に問題があったとういう視点が欠けています。また、イトラコナゾールは爪水虫の原因菌である真菌を殺す薬ですが、爪水虫の治療薬としては外用薬が発売されており、体への負担が大きい内服薬は避けるのが常識です。問題が生じた患者へのイトラコナゾールの処方が適切だったのかという議論もあってよいと思われます。