PCRは精度悪いから無駄というなら薬はもっと無駄
コロナ感染拡大の中でも厚生労働省はPCR検査は無駄という方針を変えていません。一方政府は3月から大都市で不特定多数を対象に無料でPCR検査を実施する方針だということです。これは無症状者の実体を把握するためと言っていますが、厚生労働省の方針にダメだししたものと考えられます。さらに進んで広島県では、広島市内の4区70万人を対象に無料でPCR検査を実施します。実際に検査を受けるのは対象者の約4割28万人と見込み、この中から2,300~3.900人の感染者を発見し、同数以上の感染拡大を防げるとしています(発見した感染者の5~10倍の感染拡大を防げると想定すべきです)。この検査にかかる費用は約10億円で、11~19億円の医療費削減効果があると想定しています(これも感染拡大による経済的損失を考えれば削減効果はもっと大きなものとなります)。広島県の試みで最も困難なことは、28万人に検査を受けさせることです。検査を受けて感染者と判明した場合、隔離はどうなるのか、地域や職場で差別を受けるのではないか、2週間仕事を休んだ場合収入はどうなるのか、など検査を躊躇わせる要因が横たわっています。これらに答えを用意しないと10万人に届かない可能性もあると思います。
更に自民党は1月29日、党職員に感染者が出たため党職員全員にPCR検査を受けさせることを決めたということです。政権与党においても無症状感染者を探し出し感染拡大を防ごうとしているのに、厚生労働省がPCR検査は無駄と言い張り、国の政策にならないのは異常というしかありません。厚生労働省の場合、結核感染症課が感染症対策を立案し、対処体制を整備してきましたら、PCR検査を実施して無症状感染者が増加すると、これが机上の空論であったことが明らかとなり困るのです。そのためPCR検査を抑制し、無症状感染者が発見されるのを防ごうとしていると考えられます。
一方医師にもPCR検査の拡大に反対している人が多数います。最大の理由は、PCR検査には擬陽性、偽陰性が多く、当てにならないということです。しかし現在医療機関ではPCR検査で確定診断をしており、この主張はこのやり方そのものを否定することになります。従って精度が悪いことを理由にPCR検査の拡大に反対するのは理屈が通りません。私がテレビで見た医師はPCR検査の精度は7割程度であり、これでは漏れが多過ぎ無駄と主張していましたが、そうだとすれば医師が処方する薬は全くの無駄ということになります。1つの処方薬が効果があるのは、処方された患者の2,3割と言われており、残りの7,8割の患者には効果がない(副作用しかない)ということになります。これは正確に診断して処方していないこと(「とりあえず薬を出しておきます」という医師の言葉を聞いたことがある人は多いと思います)、同じ病気でも患者の体質(遺伝子)により効く薬が異なることなどが原因です。そのため将来は個人の遺伝子情報に応じて薬が処方されるようになると言われています。そうなると効かない7,8割の薬で利益を得ている医薬品メーカーが成り立たなくなるか、1つの薬の価格がべらぼうに高価になります。
このことを考えるとPCRの7割の精度は十分高いものです。もしこの医師の家族が重篤な病気になり、助かる方法は手術しかなく、手術の成功の確率は7割だと言われたら、確率が低いから手術はしないと言うのでしょうか。言わないと思います。これらを考えればPCR精度が7割だから無駄というのが如何に愚論か分かると思います。
コロナを収束させるためにはPCR検査をあまねく実施するしかないと主張してきたのは、ソフトバンクGの孫社長、楽天グループの三木谷社長、ノーベル賞受賞者の山中伸也京大教授、同本庶佑京大名誉教授等です。最近政府の経済財政諮問会議委員の新浪剛史サントリー社長が同会議内で同様な主張をしています。彼らの共通点は世界の開拓者であり、未解決の問題を解決してきた人であるということです。コロナも治療方法が見つかっていない未解決の問題であり、彼らにとって問題解決へのアプローチは共通なのです。
一方医師を見ていると、確立した治療方法、標準治療と言われるものが無ければ、それは手掛けるものではないと主張しているように思えます。医師の場合、標準治療法でない治療法を行い失敗でもすれば訴訟を受ける恐れがあるからそうなるのでしょう。このように医師は経験していないことには無力な、一種の職人であることが分かります。我々は医学部入試の難しさから医師は優秀と誤解していると思われます。社会人となってからの伸び率としては社会で下位に位置すると思われます。コロナは医師信仰を終わらせたようです。