オリンピック組織委会長人事のゴタゴタは幕引き派と実施派の対立
東京オリンピック組織委員会(組織委)の森会長が日本オリンピック委員会(JOC)の評議員会で「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」という発言をし、辞任する騒動に発展しています。内容自体は事実を述べたもので何ら間違っていません。例えば会社の取締役会でも男性の取締役の場合、提出議案は既に社長が了承済みであると考え、殆ど発言せず了承します。しかし女性の取締役は疑義があればしっかり発言します。多くの会議体でその傾向があります。だから森会長が入っている内容は、女性の職務への誠実さを称えたものでもあり、これほどの批判を浴びるものではありません。この発言が男女平等の精神を掲げている(ということは現実は程遠いということ)オリンピックの組織委員会でのものであり、かつ森会長がその会長の立場であったため、オリンピックの精神に反するとして糾弾されることとなったものです。しかし今回はこれを超えて社会的反響を呼んでいます。それはこれまで社会で多くの男女差別を感じてきた女性がこの発言を絶好の機会と捉え、一斉に蜂起したためです。これを建前と本音を使い分ける新聞やテレビが商売に利用している毎度の構図です。このように実体はそんなに悪質な事件でもないので、少し時間が経てば何もなかったように忘れ去られます。
それよりも深刻なのは次の組織委会長人事だと思います。この問題が大騒ぎになってから森会長は早い段階で辞任の意思を持っていたようですが、コロナ深刻化の中で東京オリンピックを本当に開催するのかどうかが3月中にも決定される状況の中で、今森委員長が辞任すれば開催中止に傾くと考える一部組織委幹部が懸命に説得し、森会長の辞任を思いとどまらせたものと思われます。しかしその後IOCや大口スポンサーが非難する声明や談話を発表するなど、森会長では話合も困難な状況になったことから、辞任するしかなくなりました。今度は次の会長人事が問題となりますが、普通の会長なら「後は皆さんでお決めください。」となりますが、森会長の場合、こういうことは首相辞任の際にも経験しており、首相辞任の際と同じように後継会長を決めて辞めようと考えたようです。森会長も誰が良いかいろいろ考えたと思いますが、ここで川渕元日本サッカー協会会長(川渕氏)に決めたのには、森会長の東京オリンピック開催についての見通しが決め手になったと考えられます。その見通しと言うのは、このコロナの状況では東京オリンピックは開催できない、中止なる可能性が高いというものです。
私がそう考えるのは、2月11日川渕氏が森会長から就任要請を受けた後に語った話からです。川渕氏はこの話が報道され始めた当初は断るつもりだったと述べています。84歳と高齢だし、家族も全員反対だったからです。川渕氏は高血圧の持病を持っていることを考えると、当然の判断だと思います。これが森会長側近からの電話や当日の森会長の話を聞いて引き受けることにしたと述べています。その際森会長が涙を流し、自分をもらい泣きしたと言っています。このとき森会長が何を話したかは推測するしかありませんが、高齢の川渕氏が命を削って引き受ける決断をするとすれば、森会長から東京オリンピックの幕引きができるのは(そのとき組織委会長でいられるのは)老い先短い自分と川渕氏しかいないと言われたからではないでしょうか。と言うのはその前森会長は「この状況では将来のある若い人に会長をやらせるわけにはいかない」と言い、泥をかぶるのは自分ら年寄りで良いというニュアンスを漏らしています。また川渕氏は森会長との会談後ツイッターで「無観客のオリンピックは意味が無い」と述べ、開催可能性を狭めています。これらから2人は東京オリンピック中止を想定し、森会長は幕引きの組織委会長を川渕氏に依頼し、川渕氏はならば仕方ないと受諾したと考えられます。
しかしこれは何が何でも開催したい政府の方針に反します。スポーツマンにとっては無観客なら意味が無いとしても、政治家にとっては無観客であっても開催されることが実績になります。政治家の集まりである政府にとっては2人の東京オリンピック幕引きの方針は到底容認できなかったと思われます。そのためこの話を破談にすべく、官邸から遠藤副会長や組織委武藤事務総長に指示が飛んだのでしょう。理由は組織委が定める手続きを踏んでいないということで通ります。それに今回の後任人事については、森会長から菅首相への相談は一切なかったように思われます。森会長は議員時代から菅首相とは疎遠であり、相談するルートがなかったのでしょう。そのため安倍元首相には相談しても菅首相には全く相談がないという状況になっていたと思われます。この状況は昨年安倍元首相が解散時期について発言するなどして菅首相をないがしろにした結果、桜を見る会事件が報道された状況と似ています。これは菅首相が怒ったというより、菅首相側近の今の最高権力者をないがしろにしたら許さないという姿勢の表れだと思われます。しかし命を削る覚悟だった森会長と川渕氏の姿勢は称えられてよいと思われます。