総務官僚の監督先企業への天下りは事後収賄
現在国会で総務省の幹部4名が菅首相の長男が勤める会社から接待を受けたことが問題になっています。問題の1つは、食事代やお土産、タクシーチケットなどの提供を受けており、これが国家公務員倫理規定違反ではないかということであり、もう1つは、菅首相の長男が役員を勤める会社は衛星放送事業を行っており、接待を受けた総務省の幹部の1人はこれに対する許認可権限を持つ部署の責任者であり、贈収賄罪に当たる可能性があることです。
前者については2月22日調査結果を公表しましたが、接待を受けていたのは13人いることが分かりました。倫理規定に規定する10,000円を超える接待を受けていた官僚は全員処分を免れないものと思われます。しかし、森友事件の議事録偽造に関して処分された財務省官僚の多くが数カ月後昇進しているように、公務員の処分はその効果において形骸化しており、今回の総務省の処分もそうなる可能性が高いと思われます。特に総務省の幹部4名が接待に応じたのは、菅首相の長男を通しての接待だったことが大きかったと思われ、菅首相は処分が影響ないように処遇すると思われます。従って、1,2年後には4人とも処分はどこ吹く風の地位に就いているはずです。
そこで前者より後者の問題が注目されます。菅首相長男とこの幹部は利害関係者になるということは、この幹部も認めているところです。そのうえで当該幹部は国会で、接待の場では衛星放送に関する話題は出ていないと答弁していましたが、本件問題を報じた文春が接待の場での会話を録音したテープを公開し、実際は話題にしていたことが判明しました。これで当該幹部のこれまでの国会答弁は虚偽であることが判明し、当該接待は衛星放送の許認可に便宜を図ってもらうことが目的であった可能性が高くなりました。これにより当該幹部ともう1名の幹部はその職を解かれましたから、総務省および官邸も庇いきれないと判断したものと思われます。
これによりこの問題は、贈収賄事件の疑いが濃くなりました。元検事の弁護士は、既に東京地検が捜査に着手しているのではないかと話しています。菅首相は長男との関係について、長男は独立人格であり、自分はあれこれいう立場にないと述べていますので、検察はこの言葉を信じて一般人と同じように捜査すべきだと思われます。
この問題に限らず総務省は贈収賄の巣窟です。特に通信・放送行政は贈収賄まみれと思われます。それが引き起こしたのが携帯料金問題であり、これは総務省の監督部署が旧逓信省の流れを汲み、携帯3社の保護育成の意識が強いことから起きたものです。また放送行政もNHK受信料などを見れば分かるように、放送会社の保護に重点を置いています。この総務省の姿勢に応えるべく放送会社は、官僚の子弟や国会議員の子弟を数多く入社させ保護のお礼をしています。また放送会社の親会社には新聞社が多く、放送権益確保のため総務省に不都合な記事は書かないと考えられます。このように総務省と監督先企業は持ちつ持たれつの関係にあります。
この結果、通信・放送関係部署の官僚は、在職中は通信・放送企業の利益になる政策を実施します。これは担当官僚から放送・通信企業への贈賄です。しかしこの見返りは在職中には受け取りません。受け取れば贈収賄罪に該当するからです。見返りは総務省を退職後監督先の放送・通信企業への天下りです。総務省の通信・放送関係部署の幹部の多くが監督先の放送・通信企業に天下っているはずです。その代表が総務省在職中は通信行政の中枢を歩み、事務次官退官後電通に天下りし、現在副社長を務める桜井俊氏です。電通は放送業界や通信業界のまとめ役ともいえる存在であり、電通天下りは総務省在職中に桜井氏が放送・通信業界にもたらした利益のお礼と考えられます。携帯3社の営業利益が約3兆円になるような仕組みを作ってくれたお礼です。
このように総務省は贈収賄の巣窟ですが、官僚は在職中に監督企業の利権拡大に貢献し、退官後その見返りに監督先企業に天下る仕組みとなっており、通常の贈収賄罪には問えません。こういう場合を取り締まるため事後贈収賄罪がありますが、立証はなかなか難しいと思われます。これは本来監督企業への天下りを禁止すれば解決できることですが、自民党が官僚を操縦するためこれを認めていることから、大手を振って行われています。それが一番盛んなのが総務省であり、現在の幹部4名の接待問題は、この一面が現れたものです。東北新社にも総務官僚が天下っているはずであり、今回総務省の幹部が接待に応じたのは天下り先確保の意味合いもあると思われます。