田舎の教育委員会には「才能育成プログラム」が必要
3月に入ると大学入試の合格発表シーズンとなります。今年は3月10日前後がピークだったようで、その後週刊誌に難関大学を中心に高校別の合格者数やランキングが掲載されました。今年の入試はコロナの影響で高校の授業ができなかったり、マスクをしたままの受験で集中できないなど受験者にはストレスが大きかったと思われます。一方自宅学習が多かったせいでリクルートのインターネット授業スタディサプリや大手予備校のネット授業を受ける生徒が増えたのではないでしょうか。これが塾や予備校がない地方の高校生に良い影響を与えた可能性があります。都会と地方の高校生の最大の違いは学習環境にありますので、同じ質の授業を受けたら、そんなに大きな差は生じないと思われます。
私は熊本出身なので、熊本の高校の大学合格者状況を毎年ウォッチしています。熊本でも最近は熊本市内の高校と市外の高校で大きな差が生じています。熊本市内では偏差値70を超える熊本高校と濟々黌高校が抜きんでていますが、他の高校も市外のトップ高校を凌ぐ合格実績を出しています。やはり塾や予備校が近くにあり、学校以外の授業が受けられる、模試が受けられる環境が大きいと思われます。また熊本市内には会社員や公務員が多く、学歴の重要性を痛感している家庭が多いことも、子供の勉強意欲を掻き立てていると思われます。
最近の熊本市内の特徴としては、私立進学校が伸びてきたことです。筆頭が真和高校で、次に熊本学園付属高校でしょうか。共に中高一貫校であり、東京や大阪の有名中高一貫校がモデルだと思われます。中高一貫システムは大学合格から逆算した6年間の教育プログラムが組め、大学合格には有利なシステムです。今後更に実績を伸ばす可能性が高いと思われます。
そんな中で熊本市外の高校ですが、私の高校時代と比べると遥かに実績を伸ばしています。やはり県として教育に力を入れている成果だと思われます。私は県南部(いわゆる城南地区)出身なので城南地区で言えば、地区トップ校である八代高校は私らの頃の低迷を脱していますし、人吉、天草、宇土高校も頑張っています。ここ数年の大学合格実績で特徴的なことは、各高校から東大合格者を出すようになったことです。私がいた頃は東大合格など考えられませんでした。ところが最近は4校とも東大合格者を出しています。4校の偏差値は60台であり、熊本高校や濟々黌高校と比べると10位落ちます。熊本高校でも東大合格者は10名台ですから、この4校(八代高校を除く3校と言う方が正しいかも知れません)から東大合格者が出る方がおかしいのです。どうも突然変異が紛れ込んで、勝手に合格したようです。2,3年前に人吉高校から東大理3に合格した生徒が出た際にはびっくりしましたが、ネットで見ると彼は高校入学時に灘高校にも合格していたとありましたので、人吉高校入学時から東大合格の学力があったようです。今年は天草高校からも1名東大合格者が出ていましたが、入学時から飛びぬけた頭脳の持ち主だったとしても、偏差値60台の生徒に応じた授業と環境の中で、東大合格の学力を身に付けるは至難の業だと思われます。
そういう意味で上記2人の東大合格は本当に運が良かったと思われます。ただし、こういうリスクは犯すべきではなく、自治体で給付型奨学金を出しても熊本高校や有名私立高校に進学させるべきだと思います。彼らには地方の浮沈が掛かっています。
城南地区でもそうですが、地方は人口減少と高齢化により子供の数が減り続けています。高校でも定員が大幅に減っているところが多くなっています。熊本市内のように子供の人口が多いと、その中から勝手に優秀な子供が出てきますが、子供の数が少ない地方では、教育委員会がその少ない子供の中から才能のある子供を見つけ出し、その才能を伸ばすプログラムを与えてやる必要があります。例えば、教育委員会の中に「才能育成室」を設け、小学校の段階で子供の才能を発見し、勉強やスポーツ、芸術などに秀でた才能を持つ子供がいたら、家庭に代わり才能育成プログラムを与え、育成する必要があります。例えば、勉強の才能がある子供がいたら小学3年生辺りから放課後ネットで予備校や塾の授業を受けられるようにします(費用は自治体が負担)。そして有名私立中高一貫校に合格したら、給付型奨学金で支援します。またスポーツに飛びぬけた才能を持つ子供がいたら、近くの大きな町のスポーツクラブに行く費用を負担してやります。これらのことは都会なら家庭がやっていることですが、地方ではそんなことは考えもせず経済力もない家庭が多いので、自治体が代わりにやってやる必要があります。これから日本の経済を引っ張るのは高度な教育を受けた人と特殊な才能を開花させた人です。地方はこれらの人材を少ない子供の中から積極的に見つけ出し、育てる必要があります。これによってそれらの生徒の中から医学部の入学者が増えれば町の医者不足が解消するかも知れませんし、高度な専門人材とアクセスできることになります。またこれが成功すれば、優れた教育システムがある町として評価が高まり、移住者が増えると考えられます。
都会にはベンチャー企業に投資するベンチャーキャピタルがありますが、田舎で一番期待できる投資対象は子供であり、田舎には子供の才能に投資する「こども投資育成ファンド」があってよいと思います。