3人の俊才が示す「つぶやきは躓きの元」
国際日本文化センター助教の呉座勇一氏がツイッター上で武蔵大学准教授の北村紗衣氏を誹謗中傷していたとして、2022年度のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の歴史考証を降りることになったようです。これについては本人も謝罪文を掲載し、所属先も謝罪声明を発表しています。問題となった誹謗中傷は相当長い期間に渡って続けられていたようですが、その内容はネット上に出回っていません。どうも北村氏が女性であることを理由に自分が評価されていないと主張していると批判していたようです。これがネット上に出回らないのは、鍵垢と言われるツイッターの熱心なフォロアーだけが見られるアカウントに掲載していたため、一般の人は見れず拡散もされなかったからのようです。私はツイッターをやらないので、鍵垢という名詞もシステムも初めて知りました。
今回の事件を知ってツイッターやフェイスブックでつぶやいて躓いた2人を思い出しました。1人は、2019年11月に中国人を誹謗中傷する文章をツイッター上に掲載し、東京大学学際情報学府特任准教授の職を失った大澤昇平氏で、もう一人はユーミンのラジオでの発言を誹謗中傷する文章をツイッター上に掲載し、非難を浴びた京都精華大講師で新進気鋭の政治学者白井聡氏です。
大澤氏は福島工業高専出身でその後筑波大学に進学していますが、工業高専出身で東大准教授に出世した注目の人物でした。ツイッターの文章は、AI開発などを行うベンチャー企業Daisy社社長としてのものですが、東大准教授と切り分けられるはずがなく、所属先の東大大学院を解雇されました。
発端は2019年11月20日のツイートのようです。同氏は先ず「弊社 Daisy では中国人は採用しません」と投稿、続けて「中国人のパフォーマンス低いので営利企業じゃ使えないっすね」と投稿、更には「そもそも中国人って時点で面接に呼びません。書類で落とします」と投稿したということです。大澤氏が純粋な民間人なら「変な人がいるな」「中国人と何かあったのかな」というぐらいで済むのでしょうが、東大特任准教授であったことから問題が大きくなったように思われます。
白井氏のケースは昨年8月で、安倍首相の辞任会見を受け親交があったユーミンがニッポン放送「松任谷由実のオールナイトニッポンGOLD」の放送の中で、安倍首相の辞任記者会を「見ていて泣いちゃった。切なくて。安倍夫妻とは仲良し。同じ価値観を持っている」などと発言したところ、これを聞いた白井氏が29日、フェイスブックに「荒井由実のまま夭折(ようせつ)すべきだったね。本当に、醜態をさらすより、早く死んだほうがいい」と投稿したということです。白井氏は相当のユーミンマニアであったと思われ、自分が大好きなユーミンが自分が大嫌いな安倍首相の辞任に涙したと言ったことが我慢できず、つい悪態をついたものと思われます。言うなれば可愛さ余って憎さ100倍です。だからそんなに悪質なものとも思えません。しかしこれが大きな批判を浴び、所属先の京都精華大学も謝罪声明を発表する事態となりました。
そして今回の呉座氏のツイッターですが、北村氏は呉座氏のことを全く知らなかったようですので、呉座氏が一方的に北村氏を注目していたことになります。私がちょっとネットで調べた限り、研究実績では北村氏が上のような印象です。共に東大卒であり年齢的にも近い(呉座氏1980年生、北村氏1983年生)ことから、呉座氏が研究者としてライバル視していたのかも知れません。鍵垢で長期にわたり誹謗中傷していた点が他の2人と違い、陰湿さを感じます。私は呉座氏をNHKBS「英雄たちの選択」で見たことがあります。確か応仁の乱をテーマにした回でした。別に注目すべき発言もなく、そのときは何でこの人を呼んだのか不思議に思ったものでした(呉座氏は応仁の乱の研究者で著書「応仁の乱」)は約40万部売れたようです)。そして今回の事件です。
この3人は共に新進気鋭の研究者という評価のようですから、このような専門外のことで評価を落とすのは勿体ない限りです。ツイッターやフェイスブックのつぶやきで評価を高めることないと思われますので、著名な研究者や専門家、経営者にとってツイッターやフェイスブックは百害あって一利なしだと思います。