福島原発処理水の海洋放出問題、韓国側の論拠を調べて見た
菅首相が福島原発処理水の海洋放出を決定したことに韓国や中国が抗議しています。日本の報道では、この抗議の根拠や妥当性が良く分かりません。そこで韓国の報道を調べて見ました。先ずは4月15日のwow!koreaに「韓国原発の処理水は日本より本当に多いのか?」という解説記事があり、科学的データに基づき分かり易かったので紹介します。一部引用すると
==日本政府は韓国のウォルソン(月城)原発の数値を例にし、「中国や韓国なんかからは抗議を聞きたくない」とした発言も報道されている。 日本政府は何故「月城原発」だけを例に挙げて説明しているのだろうか? それは、月城原発が韓国で唯一の「重水炉」なので、トリチウムの排出量が他の原発より多いからだ。 勿論、韓国の原子力安全委員会や国連の放射線影響科学委員会(UNSCEAR)などの資料によると、日本政府の説明は事実である。 2016年、韓国の月城原発からは 23兆Bq(ベクレル)のトリチウムが日本海(韓国の東海)に放出された。フランスのトリカスタン原発は2015年に54兆Bq、イギリスのヘイシャム原発は2015年に390兆Bq、米国のキャラウェイ原発は2002年に42兆Bq、カナダのブルース原発は2015年に892兆Bqのトリチウムを放出した。 福島原発では東日本大震災による事故前年の2010年、2兆Bqを放出した。軽水炉である分、当然、重水炉よりトリチウムの排出が少ない。 日本政府は今後、数十年にわたり、年間22兆Bqを放出すると発表しているので、数値的には放出総量の問題はない。 それでは、「総量」の他、「濃度」を検証してみよう。 韓国原発のトリチウム管理基準は1L当たり4万Bqである。月城原発は更にトリチウムを韓国政府の基準値より更に低い数値の「1L当たり13Bq」に希釈して海に放出している。 日本原発のトリチウム管理基準は1L当たり6万Bqであり、韓国よりは緩い。しかし、今回の放流計画は韓国の基準値より低い「1L当たり1500Bq」に希釈して放流するとのことだ。 結論的には科学的な判断で「総量」も「濃度」も、数値的には問題ない。米国政府が今回の日本政府の決定を支持している理由でもある。」==
これを読むと日本が30年間に渡り毎年海に放出しようとしているトリチウムは年間22兆ベクレルと韓国月城原発から2016年に放出された23兆ベクトルとほぼ同レベルです(日本の経済産業省のデータでは、韓国は2016年に液体約17兆ベクレルを海洋に放出し、気体約119兆ベクレルを大気中に放出したとなっています)。日本はこれを30年間に渡り放出しますので、放出するトリチウムの総量は660兆ベクレルとなります。これは原発レベルでは2015年にカナダのブルース原発が放出した892兆ベクレルに次ぐ量です。ただし世界の核再処理施設ではもっと大量のトリチウムを放出しており、フランスのラ・アーグ再処理施設は2015年に計約1京3,778兆ベクレルを海洋と大気に放出し、英国のセラフィールド再処理施設は2015年に約1,624兆ベクレルを海洋に放出したということです。これらは各国の基準に基づいており、国際的基準はないようです。
国際原子力機関(IAEA)は日本の決定を支持しているようなので、現在の科学的知見からすると問題ないように思われます。
4月18日の韓国ハンギョレ新聞には別の視点からの問題が指摘されていました。それは汚染水にはトリチウム以外に炭素14とストロンチウムという放射性物質が残存しており、こちらが問題だというものです。内容は、
==福島に保管されている処理水125万トンのうち炭素14の平均濃度は1リットルあたり42.981ベクレルで、最高濃度も1リットルあたり215ベクレルであるため、放出基準(1リットル当たり2000ベクレル)を大幅に下回る。しかし総量は、平均濃度を適用し計算すれば、約537億ベクレルに達し、月城原発の炭素14の放出量4億1700万ベクレルを大幅に上回る。ストロンチウム90は、福島第一原発に保管されている汚染水に1リットルあたり最大43万3000ベクレル、平均3355.342ベクレルが含まれており、平均濃度でも、放出基準値(1リットルあたり30ベクレル)の100倍を超える高濃度だ。総量で計算すれば4兆ベクレルを超える。これについて日本は、ALPS(核種除去装置)を再び回し、トリチウム以外の放出基準を超える放射性物質をすべて放出基準値以下になるよう処理すると言っている。しかし日本がストロンチウム90の含量量を放出基準に合わせても、総量は変わらず約375億ベクレルは除去されず汚染水に残っているため、30年間に年間12億5000万ベクレルずつ放出されることになり、これは月城原発の2016年のストロンチウム90の放出量22万8000ベクレルの5400倍を超える規模になる。==
以上のような主張で、韓国は今後これを汚染水海洋放出の論点にしてくるように思われます。
韓国は今後国際海洋法裁判所への提訴を検討しているようですが、IAEAが認めている以上国際海洋法裁判所が中止の判決を下すのは難しいと思われます。しかし問題は風評被害で、海洋放出後暫く福島の漁業者が採った海産物は売れなくなると予想されます。また汚染水は海に広がり、魚は回遊するため日本の海産物全体が売れなくなる可能性があります。東京電力は風評被害については補償すると言っているようですが、その補償は全国の漁業者に及び、かつ相当長期に渡る可能性があります。
更に海洋放出に激しく反発している韓国の漁業者からも被害を補償しろという要求が出て来ると予想されます。韓国では約7カ月後に福島で海洋放出されたトリチウムなどが韓国沿岸に到着し、魚やノリなどが売れなくなると言っていますので、原因の真偽に拘わらずこの問題は必ず発生します。そして東京電力は韓国内の裁判所に提訴され、多額の損害賠償責任を認める判決が出されると考えられます。慰安婦問題、徴用工問題に厄介な問題が加わりそうです。