70歳まで働ける会社より50歳で辞められる会社

改正された高年齢者雇用安定法が4月1日から施行され、会社は社員を70歳まで雇用する努力義務を負うこととなりました。これまで65歳まで雇用する努力義務が課されていたものを70歳まで延長したものです。誤解してならないのは定年を70歳まで引き上げることを求めたものではないということです。これまでも65歳までの雇用義務を求めており、65歳定年制とすることは求めていません。そのため多くの会社は60歳定年制とし、定年後5年間は嘱託などの形で継続雇用してきました。これを70歳まで延ばす努力をして欲しいということです。

政府は、公務員については65歳まで定年を延長して、その後70歳までこれまでのように任期雇用にして対応しようとしているようです。会社においても生保や銀行では70歳雇用制を打つ出すところが出ていますが、65歳まで定年を延長して、或いは定年は60歳のままで70歳までの雇用を保証するものです。と言ってもこの年齢の人に与えられる仕事は少ないので、厚生年金支給額程度の給与を支給し、在宅勤務になる人も多いと思います。と言うことは、実質的に現在65歳から支給されている年金を70歳まで会社が肩代わりするということです。生保や銀行は、この給与を保険料や手数料に上乗せできるから良いですが、製造業などはコストに入れられず実施できないと思われます。従って70歳雇用制が法定化されることはないと思われます。

この制度の実施により学生は、70歳雇用制を実施しているかどうかで会社を選ばないことが肝要です。現在米国ではファイアームーブメントという早期退職の動きが起きています。これは早期に会社を辞めるという目標を持ち、若いときに一生懸命働いて、一生分食べていける分のお金が貯まったら、さっさと会社を辞める人たちが増えている現象を指しています。これを実現するためには、若いときから収入が良く、50歳くらいでみんな退職している会社に入る必要があります。そういう会社では生涯賃金を50歳くらいまでに払い終える賃金体系を採っています。日本では商社や野村證券などがそうです。商社の場合、50歳を過ぎたら一部の幹部を除き、その後の収入額を保証して外部の会社に転じるよう仕向けています。社内はキープヤングで、ヤングでない人は収入を保証するから会社に来ないで、居場所は無いよ、という訳です。その分50歳までの給与が高くなっています。

70歳雇用制を採用する場合、多くの会社はこれまでの生涯賃金を70歳までに分割して支払うことになります。その結果、それまで貰っていた毎月の給料より少なくなる人が多くなります。とりわけ少子高齢化が進み、マーケットが縮小する国内市場が中心の会社の場合、売上の減少が予想されますで、70歳雇用制の採用は給与切り下げを伴う可能性が高いと思われます。

多くの雇用者にとって仕事は、生活の原資を得る手段であり、仕事中心の生活は自分の理想とする生活ではないと思われます。従って、一生の生活資金さえ確保すれば、さっさと仕事を辞めて自分が理想とする、少なくとも仕事に追われない生活を求めるのは自然な動きです。日本でも親から数千万円の遺産分与を受ける人は少なくありません。そういう人は親のコネで待遇の良い会社に入っていることが多く、若いときから高収入となっています。こういう人の中から40~50歳でスパッと会社を辞める人が出てきます。それに若者の起業も増えてきてIPOで一生分の資産を作る人も増えていますので、これらの人たちもそうです。

70歳雇用制で救われる人が多いのは事実でしょうが、学生が就職を目指すべき会社は50歳までに辞められる会社だと思います。