最高裁の憲法判断は国民投票の対象に

5月6日国民投票法改正案が成立したという報道です。この法案は国民の関心が薄いですが、一部の憲法改正論者にとっては、これで憲法改正が実現に近づいたという感慨のようです。一体何が改正されたのかというと、主に以下の8項目です。
1.投票所が複数個所になる(例えば通勤途上の投票所が開設できる)

2.投票時間の幅が広がる(前倒しや後ろ倒しの投票所もできる)

3.期日前投票ができる場合が広がる(仕事や用事の場合のみが、災害・悪天候の場合も)

4.外国で投票する手続きが簡単になる(51日前に申請して出国すればよい)
5.船上での投票できる条件が緩和される(同僚日本人がいなくても可など)
6.繰延投票が迅速にできる(5日前の告示から2日前の告示に)
7.投票所に連れていける子供の範囲が広がる(幼児だけだった縛りが撤廃)

8.投票人名簿を閲覧できる条件が厳格化される(個人情報保護のため)

内容的には問題となる項目はないようです。なのに、立憲民主党や共産党が反対してきた理由は主に次の3つのようです。

  • 広告規制がなく、広告の物量で投票結果が決まる。
  • 最低投票率の規定がないので、低い投票率でも憲法改正が成立する。
  • 厳しいコロナ下において進める法案ではない

1と2については、この法案とは別個に検討する課題ですし、3についてはこの法案を審議する憲法審査会はコロナ問題とは無関係であり、反対のための理由としては合理性がありません。従ってこの法案の成立自体は問題ないと思われます。

この法案が成立したとしても、広告規制の問題や最低投票率の問題がありますので、憲法改正案が国民投票に掛けられるまでにはもう少し時間が掛かりそうです。

私は、今回の国民投票法案の改正を受けて、最高裁判所の憲法判断を国民投票に掛けられるようにして欲しいと思います。具体的には、2017年12月の放送法64条に関する最高裁の合憲判決の妥当性を国民投票に掛けて欲しいのです。

2017年12月、最高裁判所(最高裁)が受信料制度を定める放送法(64条)について判断を下すことになり、受信料に苦しむ家計は最高裁が違憲判決を下すことに期待しました。ところが、期待に反し全面合憲判決でした。この裁判は小法廷が扱っていたものを大法廷に回付されましたので、小法廷の裁判官は違憲の疑いがあると考えていたと思われましたが、その裁判官さえ合憲の判断でした。この裁判については、法務大臣が異例とも言える意見書を提出していましたから、法務省としても違憲判決が出ることを恐れていたものと思われます。放送法64条はそれくらい違憲の可能性が高い悪法でした。違憲の根拠としては、先ず第一に、意志の尊厳という基本的人権に関わる権利を抑圧し受信契約を強制していることが挙げられます。これは結婚を申し込まれたら断れないということと同じですから、如何に不当か分かると思います。また、受信料が見る、見ないに関わらず支払いを求められる理由として、受信料は公共放送を維持するための負担金だから説明していますが、それなら受信料の実体は税金ということですから、所得に応じて負担するのが公平なのです。それを受信契約に基づく支払いだからとして、所得に関係なく受信対象世帯一律の負担としています。その結果所得1,000万円の世帯にとってはなんのこともない負担(0.26%)が、所得200万円の世帯では重たい負担(1.33%)となっているのです。これは公平な負担とは言えず、違憲です。また、受信料は、生活保護世帯は免除になっていますが、実質的には生活保護を受けられる生活水準にありながら、生活保護を申請せず頑張っている世帯からも取り立てています。住民税非課税世帯からも取り立てているのです。これは健康で文化的な生活を営む権利を侵害するものです。

これ程分かり易い違憲状態を最高裁が合憲と判断したのは、もし違憲判決を出したら受信料を払う人がいなくなり、NHKの放送が停止に追い込まれてしまうことを危惧したためと思われます。一般の裁判では法律解釈としては違法だけれど、違法状態に基づき多くの利害関係が成立しており、現状の安定に配慮すると違法とは判決できないという事情判決が出されることがありますが、憲法判断では事情判決は認められません。それは憲法が国の大枠を決めたものであり、大枠をはみ出した状態は認められないからです。例えば、二階建て建物の2階部分が道路にはみ出している状態が認められないのと同じです。憲法問題の場合、形の有るものの場合と違い、違憲状態が目に見えないため一般の国民は認識できません。

しかし違憲は違憲とはっきりさせないと、憲法が死文化します。最高裁が憲法判断で事情判決を繰り出しているため、今の日本国憲法はお題目にも劣る状態です。

刑事事件では検察の不当な裁量行為に歯止めをかけるため検察審査会があり、最近効果を発揮しています。最高裁の判事は法律家や行政官出身者であり、現状の安定に重きを置く習性があり合憲判決になりがちです。憲法判断は国民の常識と一致する必要があり、国民常識とヅレがあると思われる最高裁の憲法判断は、国民投票にその妥当性を問えるようにすべきです。放送法64条に関する最高裁の合憲判決が国民投票にかけられれば、圧倒的多数で否定(違憲と)されます。