ソフトバンクG純利益5兆円が孫社長のピークかも

ソフトバンクGが2021年3月期の決算を発表しました。純利益が4兆9,876億円と日本企業としては史上最高額となっています。世界的にもこの純利益を上回ったことがある企業はアップルとサウジアラムコの2社だけということです。日本2位のトヨタの純利益が2兆2,823億円ですから2倍以上の純利益です。しかし、トヨタの売上高が27兆2,145億円なのに対してソフトバンクGの売上高は5兆6,281億円となっています。ソフトバンクGの売上高はトヨタの5分の1に過ぎません。ということは、日本国内の経済への影響はトヨタの5分の1以下ということになります。雇用で言えばトヨタが世界で36万人の従業員を雇用しているのに対し、ソフトバンクGのそれは8万人に過ぎません。かつ5兆円の純利益の約9割は投資事業からものです。投資事業の従業員は1,000人もいないのではないでしょうか。それだけの人数で4兆円以上稼ぐから凄いとも言えますが、社会的貢献はあまりない事業です。

ソフトバンクGの決算書を見る場合、注意すべきことが2つあります。1つは、売上高と純利益の関係です。ソフトバンクGの売上高5兆6,281億円に対して純利益が4兆9,876億円ということは、純利益率が88.6%となります。売上高が殆ど純利益の状態です。これは純利益のうち約4兆円がビジョンファンドの投資益であり、売上高に計上されることなく利益に計上されるからです。売上高の殆どは傘下の通信会社ソフトバンクの売上高となります。このようにソフトバンクGは事業会社の持ち株会社としての性格と投資ファンド運営会社という2つの性格を持つため、こういう決算内容となっているのです。

もう1つは、純利益の大部分が評価益ということです。約5兆6,000億円はビジョンファンドの評価益です。トヨタの場合、純利益分現金が増えるのですが、ソフトバンクGの場合現金が増えたのは約1兆3,000億円です。

ここにソフトバンクGの危なさがあります。前年が9,615億円の赤字で、今年は4兆円9,876億円の黒字というように大きく変動する可能性があるのです。ただし9,615億円の赤字でも評価損なので、現金が減るわけではありません。その分4兆9,876億円の利益が出ても数字ほど現金が増えるわけではないということです。

普通の投資会社の場合、投資先が株式公開したらなるべく早くその株式を売却し、得た現金を投資家に分配します。株式公開時が株価のトップであることが多く、その後不人気化するとともに買い手がいなくなるからです。ソフトバンクGの場合、投資先が株式公開しても売却せずそのまま保有していることが多いので、現金化が難しくなる可能性があります。また保有割合も多いことも売却を難しくします。例えば、ソフトバンクG本体はアリババ株を30兆円近く保有していますが、これを処分するとなれば半値にしても処分しきれないと思われます。それだけの資金を保有する投資家は少ないからです。だからソフトバンクGを評価する場合、こういう点を考慮する必要があります。そうなるとソフトバンクは、保有株式の時価総額の半分以下の評価しか出来なくなると思われます。

ソフトバンクGは決算書上大きな利益を計上しても、法人税は殆ど納めていないことで有名です。法人税法の穴をついて様々な節税策を繰り出してきました。その結果国税庁とのっぴきならない状態となったようです。

今回5兆円の純利益を計上していますので、普通なら多額の納税額となります。これをどんな節税策を繰り出して、どこまで減らしてくるか今後の注目点となります。

孫社長は「こんな利益で満足してはいられない、今後もっと大きな利益を出す」と述べていますが、5兆円の利益を計上したことにより、そろそろ投資事業に虚しさを感じてくる頃ではないかと思われます。多分ビジョンファンドでの投資に、ヤフーやアリババを見つけ投資した頃の喜びや感動はなくなっていると思われます。

孫社長の下からは、実業家である日本電産の永守社長やユニクロの柳井社長が去って行きました(社外取締役を辞任)。実業には興味がなくただひたすら計算上の利益追求に明け暮れる孫社長とは相いれなくなったためと思われます。孫社長も60台半ばなり、健康面で何があってもおかしくない年齢となりました。ソフトバンクGの最大のリスクは孫社長の年齢かも知れません。そう考えると5兆円の純利益がソフトバンクGの、また孫社長のピークとなった可能性が高いと思われます。