現代貨幣論は財政破綻国家の救済理論

日本の国債残高が約1,000兆円に達し、国民1人当たり約1,000万円の借金を負っていることになるという新聞報道を見て、「これは大変だ。こんな金額俺は返せないぞ」と思い、国債に興味を持ちました。身近な銀用預金や銀行借入、株式投資の話なら、ネットで調べればそれなりに理解できるのですが、国債などこれまで一度も買ったこともないので、いくら調べてもピンときませんでした。そうして何年かしてやっと国債のカラクリが分かってきました。

そこで先ずブログに書いたのが「債務者と債権者が同じと言う国債の不都合な真実」です。これは日銀保有国債が500兆円を超えたということで、日銀について調べて分かったことです。日銀には財務省が55%出資していることから、日銀は会社で言うなれば財務省の子会社です。子会社ということは親会社の支配下にあると言うことです。親会社が子会社から借入をすることは、会社でもあります。しかし日銀が持つ財務省宛ての債券(国債)は500兆円と言う天文学的な数字です。こんなに国債を持っていたら日銀は儲かって仕方ないだろうと思って調べて見たら、日銀はJASDAQに上場していることが分かりました。それなら自分も株式を買いたいなと思い調べて見ると、日銀は資本金1億円で、株式ではなく出資証券を発行していることになっています。1口100円ですから100万口あることになります。このうち財務省が55%持ち、残りの45%は民間となっていますが、民間は銀行や生保・損保などが中心で個人は少ないと思われます。これではなかなか買えそうもないなと思い、ヤフーファイナンスで株価欄を見ていると殆ど売買は成立していません。それに業績欄に損益状況や資産内容が書いてなく、一般の民間会社と取扱いが異なります。更に調べると日銀は配当が1口5%(100円につき5円)に制限され、株主総会に相当する出資者総会もありません。従って出資者の権利は安定的に5%の配当を受け取れるだけのようです。

500兆円も国債を持っているから利益が蓄積し巨額の内部留保になっているはずと思っていたら、日銀は運営に必要な経費や配当を除いた利益は財務省に納入することになっており、貯め込むことはできないようです。ということは、日銀は利益を追求する営利企業ではないということです。ならば証券取引所に上場できないはずなのです。証券取引所は営利企業が利益を追求し、事業拡大のための資金を調達のための場だからです。そこで日銀という本来上場できない団体が上場していているのは何故か、という疑問が浮かんできます。その答えは、日銀は公式には政府から独立して金融政策を行っていることになっており、形式的に政府からも財務省からも独立している必要があるためのようです。上場していることで日銀は政府や財務省から独立した存在だと言いたいようです。しかし実体は財務省が出資口数の55%を保有していますし、日銀の経営責任者である総裁は政府が任命しています。政策決定を行う政策委員会の委員も政府が指名しています(国会の承認が必要)。従ってどう偽装しても日銀は政府や財務省の支配下にある国家機関であることは間違いありません。それに日銀は国の機能である通貨発行権を与えられていますから、これを国から完全に独立させることは有得ません。

この結果、国債の発行者(債務者)である財務省と500兆円もの国債の保有者(債権者)である日銀は、実は同一主体である(或いは共に国の機関である)という結論に至りました。

そうだとすれば、債権債務は同一主体(財務省または国)に属し消滅します。例えば親会社が子会社から100億円の借入があっても、子会社を吸収合併すればその借入は消滅します。また子が親に1億円の借金があっても親の資産を子が相続すれば借金は消滅します。財務省と日銀の間でも財務省が日銀を吸収すればこれらと同じ状態になります。吸収自体は法律を制定はすれば簡単にできます(新日銀を設立し、従来の業務を移管したあと、500兆円の国債を保有する旧日銀を吸収すればよい)。今でも民法520条に「債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は、消滅する」と言う規定がありますから、その法意は公的機関同士の間でも通用します。

このように日銀がどんどん国債を買入れているのは、増え過ぎた国債残高を将来混同により消滅させるためであることが分かりました。これは財務省および日銀に共通認識がないとできない芸当です。

この結論に至って現代貨幣論(Modern Monetary Theory=MMT)について調べて見たところ、ほぼ同じ結論になることが分かりました。MMTが主張するところは、

  1. 自国通貨発行権を持っている国(EU加盟国はEUという団体が通貨発行権を持ち、加盟国は持たない。ギリシャがこの例。)は、通貨をいくらでも発行できるので、国債のデフォルトは起こりえない。
  2. 従って国債は、国債残高やGDP比などは気にせずに発行できる。
  3. ただし、国債発行にも制約があり、それは悪性インフレを起こさないといことである。
  4. 国の予算の全部を国債によって調達してもよく、税金は社会的不公平を是正するための手段である。

ということです。MMTの内容は正しいと思われ、まるで現在の日本財政はこの理論に依って運営されているようです。

しかし、MMTが議論されているのは、日本と米国中心であり、その他の国では議論されていません。何故かと言うとその他の国の予算は、大部分が税収で賄われ国債の割合は大きくないため、国債発行残高や償還は問題になっていないからです。国債発行残高や償還が問題になっているは日本のみです(米国も多少あるが深刻ではない)。要するにMMTは財政破綻国の救済理論なのです。侵略戦争を行った国では必ず侵略戦争ではなく自衛のための戦争だという理論を提供する学者が出てきますが、MMTはあれと同じ類だとも言えます。MMTは本当のことを言っているのですが、財政破綻を招いた原因と責任を置き去りする理論でもあるのです。

MMTによって日本の財政を運営すれば、国債残高が膨張し、いずれ悪性インフレを招く可能性が大です。MMTを唱える学者も国債発行は悪性インフレを起こさない範囲でという制約を受けると言っていますが、そのコントロールの仕組みについては何も述べていません。インフレは一旦火が付くと止められないことは、世界で経験済みです。そしてインフレを撃退しようとするとその後遺症が長く続くことも経験済みです(日本の不動産バブルも同じ)。世界の多くの国が行っている予算は税収を中心とし国債発行はできるだけ抑制するというやり方は、税収で支出が抑制されるため、悪性インフレを招くことはないことから、長く続けられてきたと考えられます。このやり方だと逆にデフレになる、またはデフレからなかなか脱出出来ない可能性があるのですが、その場合物価が安くなることから、悪性インフレより人々の生活に与える影響は小さいと言えます。従って世界の多くの国がこの方法を採用し、日本の財務省も固執していると考えられます。

もしMMTを主張する学者が今の税収中心の予算制度から国債中心の予算制度に代えたいと思っているなら、悪性インフレを起こさない国債管理の仕組みを提示する必要がります。これ無しにMMTの採用を主張するのは、それこそ侵略戦争を自衛戦争と主張する類であり、悪性インフレが生じたときには、国民を苦しめた戦犯として刑務所に収容されてもおかしくありません。