朝日新聞、値上げではなく値下げが必要
朝日新聞(以下朝日)は朝夕刊セット版の月ぎめ購読料を7月1日から363円値上げして税込みで4,400円にし、朝刊のみの統合版は407円上げて3,500円にすると発表しました。値上げは1993年12月以来、27年7カ月ぶりだそうです。その理由として朝日は今年3月の赤字が441億円に達しており、経営努力が限界に達したためと言っています。
しかしこれは誤った判断です。朝日に必要なのは、値上げではなく、値下げです。
朝日の販売部数は1993年12月の約820万部から2020年8月に500万部を割ったということですので、約4割減少しています。これは新聞全体の販売部数の減少とほぼ同じ割合です。これに対してサラリーマンの必読紙の地位を築いた日本経済新聞は販売部数を伸ばし、2017年11月に4,509円を4,900円に値上げしました。それに続いたのが読売新聞で2019年1月に、4,037円から4,400円に値上げしています。これにより24年続いていた全国紙3紙(読売、朝日、毎日)の購読料横並びが崩れました。朝日は日経、読売に追随した形です。
新聞の部数がこれだけ減少するのは、誰もが分かっている通り、紙媒体で翌日配達の新聞では瞬時配信のインターネットに太刀打ちできないからです。朝日は1789年創業となっていますので、印刷が木版印刷から活版印刷に移行した頃に当たっており、活版印刷の申し子のような存在です。その活版印刷も1980年代にはデジタル印刷にとって代わっています。そして1995年には朝日が「アサヒ.コム」を設けてインターネットによるニュース配信を始めています。だから朝日は新聞が紙媒体からネット配信に移行することは20年以上前から認識していたことになります。それでも朝日に限らず新聞社は現在でも紙媒体の宅配にこだわっており、ネット配信はその補完の位置付けです。これが新聞社の収益を悪化させた根本的原因であり、朝日を始めとした日本の新聞社が取り組むべき経営課題です。米国ではニューヨークタイムスがネット配信(電子版)契約を増やし続けており、昨年4月には契約者数が400万人を超えたと発表しています。新聞紙の契約が約100万人のようですので、いずれ新聞紙廃止、ネット配信のみに移行するのは確実です。日本でも日経がネット配信に力を入れ、電子版の契約者数が2020年12月末で約76万人と発表していますので、新聞紙契約(約200万分)の約3分の1まで来ています。日経の読者は会社員が殆どであり、スマホやPC操作に慣れている人が多いため、今後は加速的に電子版への移行が進むと予想されます。
これに対して朝日の読者は知識層、それも革新的な人や自由業などが多く、情報にスピードを求めるよりも、正確で気品のある記事を求めるところがあると思われます。今の朝日からは想像できないかも知れませんが、かっては朝日のコラム天声人語は大学入試の国語で頻繁に引用され、名文の宝庫と言われていました。そのため大学受験生を持つ家庭は、子供の受験ために朝日を購読するところが多かったのです。この流れがあり、その頃の朝日の読者が今の朝日の最大の購読層になっていると思われます。その層は現在60歳以上に達しており、スマホやPCよりも新聞紙を好みます。そのため朝日は電子版への移行が遅れているように思われます。これは日本最大能購読部数(2020年末約770万部)を誇る読売新聞も同じですが、築き上げた新聞配達網の問題もあると思います。
現在新聞を毎日読んである人は、70歳以上で60%を超えていますが、50歳代で30%台であり、20代では1桁となっています。私が東京で会社勤めをしている頃は、朝の満員の通勤電車で新聞を4つ折りにして読んでいるサラリーマンをよく見かけましたが、今ではそれは稀で殆どがスマホを見ているということです。これからも新聞紙が絶滅に近づいていることが分かります。
これらから分かることは、新聞紙と決別する覚悟をしない限り新聞社の経営が改善することはないということです。そして電子版に移行するとなるとその料金はネット配信の相場に収束します。ネット動画配信の料金相場が1,000~2,000円であり、新聞の電子版の料金もこの相場に収束すると考えられます。従って、朝日がすべきなのは購読料値下げではなく、新聞紙の内容を電子版に移植し、購読料を2,000円以下に値下げすることです。