トヨタは半導体、全固体電池、車載モーターの会社になる

昨年来半導体不足で、車、パソコン、家電など多くの商品の生産に影響が出ているようです。そのうち車では半導体不足のために生産を止める事態になっています。車メーカーでも影響は各社一律ではなく、大幅な減産になっているメーカーもあれば、小幅な減産に留まるメーカーもあります。これは各社の半導体メーカーとの契約内容と在庫との関係が影響しているようです。日本ではトヨタが余り影響を受けていません。今後は一部で生産ラインを止めるところが出るようですが、他社に比べて軽微に留まります。トヨタの場合、ジャストインタイムという納入制度で知られているように、部品在庫は極力持たないシステムになっていましたから、少し驚きです。どうも東日本大震災の際に部品メーカーが被災して在庫を持たないことのデメリットに気付き、ジャストインタイムに修正を加えたようです。具体的には部品納入メーカーを複数にしたり、かつ供給がタイトなものについては長めの在庫を持つようにするなどです。ただしトヨタが世界一の車メーカーであることから、半導体メーカーも最優先で半導体を供給していることが減産が少ない最大の原因と思われます。

半導体不足の影響がガソリン車から電気自動車への転換時期と重なっており、トヨタを始め車メーカーの今後の政策に大きな影響を与えると考えられます。特にトヨタの場合、ガソリン車から電気自動車への転換は、これまで築いてきた優位性が瓦解する可能性もあり、大きな政策転換が検討されていると考えられます。車メーカーは多くの部品を部品メーカーから購入し、それらを組み立てて最終製品にしています。車メーカーで内製しているのはシャシー、エンジンなどごく一部です。特にエンジンは車メーカーの核心部分であったと思われます。これが電気自動車になりモーターに取って代わることがトヨタにとって一番深刻な事態です。次に電気自動車普及の肝と言われるバッテリーです。電気自動車の最大の弱点はバッテリー性能により走行距離が短いことです。現在のバッテリーは溶媒に電解液を使っていますが、これを固体にすれば性能が大きく向上すると言われています。トヨタは車用全固体バッテリー(電池)の開発ではトップを走っているという報道です。これに加え、今回半導体の重要性が認識されました。車に取り付けられる半導体は、今後自動運転技術や安全技術が進むにつれ大幅に増えると考えられます。そうなると半導体が車のキー部品の1つになってきます。ということは、車メーカーとしては内製化したい部品となってくるということです。

この中でモーターについては、日本電産が先頭を走っており、量産効果で価格が安いことから、トヨタも当初日本電産から購入すると思われます。しかし同時にモーターメーカーを買収し、内製化を進めてきます。やはりモーターは電気自動車の差別化の肝になると思われるからです。トヨタの場合、グループの自動車会社にダイハツ、スバル、マツダ、スズキ、日野があり、ボリュームを確保できます。全固体電池や半導体についても同様で、グループ内に供給するだけでも世界トップクラスの生産量になります。それにこれらを日本電産などの部品メーカーに依存するとなると車はパソコンやテレビなどと同じコモデティ商品になり、それこそ車メーカーは受託生産会社のような存在となります。これでは差別性は出せず、不安定な企業になってしまいます。そのためトヨタは、モーター、全固体電池、半導体は自社で、或いはグループ内で生産する体制を築くと考えられます。

そういう視点でトヨタの動きを見ると、半導体については既に動き出しているように思われます。トヨタは半導体の生産をグループ会社のデンソーに集約したようです。デンソーでは岩手(ウエハの生産)や北海道(半導体センサー)で工場を拡張し、マレーシアでも生産を始めたようです。今後この動きは今回の半導体不足騒動で加速すると思われます。そして電気自動車が主力になる時期にはデンソーが世界有数の車載半導体メーカーになっていると考えられます。

全固体電池についてはトヨタ本体で生産を始めるでしょうし、モーターについては他メーカーのモーター事業を買収したり、合弁会社を設立することが考えれます。こうしてトヨタは、モーター、全固体電池、車載半導体で世界有数のメーカーなると考えられます。