トヨタは徳川幕府に似ている
トヨタの豊田社長の昨年の報酬が4億4,200万円だったと報道され、ネットでは欧米の経営者と比べると安過ぎるとして賞賛する声が多数です。しかしこれは誤った評価です。豊田社長が報酬を低く抑えているのは、これで他の日本人役員の報酬および従業員の給料を低く抑えるためです。日本人役員と書いたのは、昨年までいたフランス人のルロア副社長には役員報酬として10億円を超える額を支払っていたからです。トヨタの海外法人の役員にはその国の基準で報酬を支払っているようです。ということは米国や欧州法人の役員には10億円を超える人が多数いることになります。そうしないと米国や欧州では有能な幹部を招聘できないようです。問題は、欧米の役員は10億円を超える報酬を貰っているのに、日本の役員は低く抑えていいのかということになります。日本の役員はトヨタ本体を支えているわけで、トヨタの収益に対する貢献度としては欧米の役員を上回ると考えられます。日本の企業では役員報酬を高くしない慣行にあると言って、海外役員と日本人役員で報酬格差を付けることは許されないような気がします。世界の基準であり日本の基準としても認められて来ている同一労働同一賃金の考え方にも反します。やはりトヨタは日本人役員のためにも欧米役員との報酬格差は是正する必要があります。そのためには、豊田社長自身がトヨタの利益(2021年3月期営業利益2兆4,428億円)にふさわしい報酬にする必要があります。報酬を報酬委員会が決める制度になっていれば是正されたのでしょうが、トヨタは役員報酬の総額および分配については社長一任となっているものと思われます。そのため豊田社長が自分の報酬を低く抑え、それが天井となって他の日本人役員も低くなっているものと思われます。こうなると従業員の給料も上がらなくなります。韓国のサムスン電子は韓国内ではトヨタの地位にある会社(2020年度営業利益3兆4,100億円)ですが、昨年の従業員(約11万人)の平均収入は約1,220万円となっています。これに対してトヨタは860万円(2020年度)です。サムスン電子は欧米流の実績主義で知られており、会社の業績に応じて従業員にも給料を支払っていることが分かります。その結果テレビ、スマホ、半導体などで世界トップの企業となっています。やはり世界1を目指すなら実績に応じた報酬・給与体系の導入は不可欠のように思われます。トヨタの従業員収入は韓国現代自動車並みであり、実績主義を採る現代はインドやベトナムで販売台数を伸ばしています。成長市場で販売を伸ばすには実績主義の報酬体系が不可欠なことが分かります。トヨタがこのままこのような非実績主義、日本人と欧米人に分けた二元報酬制度を採り続ければ、日本人の間で競争意識が薄れ、国内から弱体化していくと考えられます。
このトヨタの報酬制度を知って徳川幕府の支配体制が思い浮かびました。徳川幕府の創始者徳川家康は三河出身であり、トヨタ創業家である豊田家が尾張出身であることから、地理的に近く、考え方が似通っているのかも知れません。徳川幕府は将軍を中心とした幕府の運営は、三河時代から徳川家を支えた譜代大名で行いましたが、譜代大名には大きな領地は与えませんでした。譜代筆頭の彦根藩井伊家が35万石で最大です。外様には加賀藩100万石を筆頭に薩摩藩62万石、肥後藩54万石、黒田藩52万石など大きな領地が与えられたのと対照的でした。これについては、譜代大名は幕府の要職に就けるからとか、譜代大名に大きな領地を与えると幕府内で反乱を起こす可能性が出て来るから、とか言われています。幕府の要職に就いていたとしても、その役職の割に領地が少ないことを不満におもうこともあったと考えらえます。これと同じことをトヨタがやっています。トヨタ本体で豊田社長を支える役員の報酬は欧米役員の数分の1に抑えています。報酬が高い欧米役員は徳川幕府の外様大名で、トヨタ本体の経営には参加させないという制度になっています。これは徳川幕府のような鎖国上の世襲政府においては良いと思われますが、トヨタのようなグローバルに事業を展開し、世襲制が難しい企業には馴染まないように思われます。
トヨタにおいても現在のような家業的支配制度(報酬制度)は限界となっており、豊田社長が年間100億円の報酬をとる時代が近いと考えられます。それは従業員にとっても良いことです。