孫社長は資本家でも投資家でもなくファンド運営家

ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義社長は23日に開催した定時株主総会で、「SBGは、AI起業家とビジョンを共有して情報革命の未来を作る資本家だ」「産業革命の中心がロスチャイルド家だったのであれば、SBGはAI情報革命の資本家だ」だと述べたということです。

SBGの2021年3月期の決算は、純利益4兆9,876億円と日本企業とは思えない数字です。世界的にもこれを超えたことがある会社は2社(アップルとサウジアラムコ)だけだそうです。日本2位のトヨタの純利益が2兆2,823億円ですから2倍以上の純利益です。しかし売上高ではトヨタが27兆2,145億円に対してSBGは5兆6,281億円と、SBGの売上高はトヨタのそれの5分の1に過ぎません。ここからも分かるように日本全体で見ればトヨタの存在感がSBGを圧倒します。SBGは金融業界や資金運用に興味がある人の間で名前が知れ渡っているに過ぎません。

かって孫社長はヤフーに目を付け、日本のネット時代をリードしました。その後2006年にはボーダフォンを1兆7,500億円で買収し、小が大を飲むびっくり仰天の投資力を見せました。更には中国アリババに目を付け20億円投資し、現在は20兆円を超える資産価値になっています。ここまでは孫社長の目利き力が物を言い、かつ会社の資金(会社が調達した資金)を投資しており、孫社長は投資家だったと言えると思います。

しかし現在SBGが投資しているのは主にファンドの資金です。孫社長は外部投資家の資金を預かって投資し、運用益を投資家に返還することを事業としていることになります。それも基幹ファンドのビジョンファンドはベンチャー企業への投資と言いながら、投資先は時価総額1,000億円を超えるベンチャー投資で言うところのレーターステージ投資です。レーターステージ投資には目利き力は余り必要なく、投資金額のボリュームが物を言う投資です。また投資先を見ると情報系ベンチャーばかりでなくWeWorkやOYOのような不動産会社にも投資しており、業種を絞らず利益が出そうならなんでも投資するダボハゼファンドと言えます。

これは孫社長が言うところの資本家や投資家のイメージとは大きく異なります。資本家のイメージは孫社長が挙げたロスチャイルドイルド家のように自分の有り余る余裕資金を投資する人たちですし、投資家は自分の資金や借入金を投資して自らのために利益を稼ぐことを目的とする人たちです。孫社長は資金の多くをファンドで集め、その資金を投資していますから、そのイメージはファンド運営家です。資本家は自己資金を投資しますから投資が損失化しても周囲の声を気にする必要はありませんし、投資家は自分の懐ぐらいを考えていれば良いことになります。しかしファンド運営家の場合、ファンドの出資者のことを気にする必要があります。SBGは2020年3月期に9,615億円の赤字を計上し、孫社長も株主総会で反省の弁を述べていました。多分ビジョンファンドの出資者総会は針の筵だったのではないでしょうか。このようにファンドの運営家はファンドの収益に一喜一憂することになります。資本家とは程遠い存在ですし、投資家程強い立場ではありません。この3者の中で一番臆病な存在です。そしてそれが今の孫社長の立場と言えます。

今年の株主総会での孫社長の写真を見て輝きが無くなっているのに驚きました。眼鏡を掛けたこともあるでしょうが、孫社長自身このファンド運営家の仕事を楽しんでいないことが一番大きいように思えます。孫社長は個人資産数兆円あるはずですから、それを元に資本家になる時期に来ていると思います。