最低賃金引上げには公務員並みの助成が必要

7月14日、中央最低賃金審議会は2021年度の最低賃金を28円引上げ、全国平均で930円とすることに決定したという報道です。率では3.1%の引き上げで、2002年以来最高の引き上げ率となります。昨年が1円の引上げで、コロナの影響は今年が深刻ですから、驚きの引上げ幅と言えます。

これは菅首相の経済ブレーンで成長戦略会議の議員を務める元ゴールドマン・サックス証券調査部長で京都にある小西工芸社社長を務めるデービット・アトキンソンの主張でもあります。同氏は、日本の経済成長率が低いことと賃金が上がらないのは、生産性が低く賃金が安い中小企業が多いからだと述べ、最低賃金を引き上げて中小企業を淘汰すれば、生産性が上がり賃金も上がると述べています。賃金が低いから生産性を挙げる努力をしないという訳です。この方法は英国などで証明されているようです。

それと低賃金となっているのは立場が弱く交渉力がない労働者であり、社会格差が拡大する原因になっていると言います。たしかにそんなところがあり、日本の最低賃金制度は、この格差を公的に承認してることになります。

言われてみればその通りであり、今年最低賃金の大幅な引き上げに踏み切ったのは評価できます。政府からは最低賃金をなるべく早く1,000円まで引き上げるべきとの声も聞こえてきますので、来年以降も大幅な引き上げは続きそうです。

そうなるといきなり生産性をあげることはできませんから、倒産する、というよりは廃業する企業が多数出て、失業者が増加することが予想されます。従って最低賃金の大幅な引き上げは、中小企業の生産性向上対策と失業者に対する支援策がセットである必要があります。例えば中小企業の合併を促す政策や中小企業従業員への教育訓練補助制度が必要になると思われます。

最低賃金引き上げは、最終的には最低賃金を社会全般で保障しようという政策ということができます。これは公務員の賃金制度と同じです。公務員の場合、地方公務員の賃金(給与・年収)は、ラスパイレス指数により、国家公務員の95%以上となっています。一方公務員の給与の原資は税収であり、地方公務員が属する地方自治体の税収には大きな開きがあります。都道府県の住民1人当たりで見ても最大の東京都と最少の県では2倍以上の差があります。しかし公務員の給与差は5%程度しかありません。これが可能なのは、税収が少ない自治体には国から地方交付税交付金を支給し、税収の少なさが穴埋めされるからです。この交付金の本来の主旨は、全国どこでも均一の行政サービスを受けられるようにすることですが、公務員は拡大解釈して給料の全国均一化につなげているのです。

公務員でこれが許されるのなら、地方の最低賃金についても中央との差を埋める助成金(交付金)があってしかるべきです。例えば、最低賃金引上げ交付金制度を創設します。この原資は国債を発行して賄います。この国債額については市中消化額と同額を日銀が買入れます。これによってこの国債は償還されたのと同じ効果となりますし、市中に新たな資金を供給することになります。これによって確実に景気はよくなります。ただしこの制度は10年限定とし、支援額は毎年最低賃金引き上げ幅の半分に減らしていきます(1年目50%、2年目25%、3年目12.5%、4年目6.25%・・・)。こうして10年で欧米並みの最低賃金1,300円を実現します。これで物価が上がり、収入も上がり、景気もよくなります。

この案の肝は公務員に用いられている税金を用いた最低賃金の全国均一化手法を民間にも適用することです。