コロナ入院制限の前に民間病院の入院受入れを義務化すべき

8月2日政府は、これまで入院の対象だった中等症と軽症の患者について、重症になるリスクが高い場合をのぞき、原則として自宅療養とするとの方針を発表した。これに対しては多方面から批判が巻き起こっています。軽症については自宅で仕方ないにしても、いきなり中等症まで入院させないとしたのは人命軽視の批判を免れません。中等症の場合、一挙に重症化する場合があると言われており、その場合入院しても手遅れになるケースが多いと言われています。民主党の羽田雄一郎議員は2020年12月コロナに感染し入院を待つ間に亡くなられています。

確かにデルタ株の影響で感染者が急増しているのは事実であり、今後入院病床が逼迫してくるのは理解できます。しかしオリンピックの開催に当たって菅首相は、感染者は増えているけれどワクチン接種が進んだ影響で、高齢者の感染が少なく重症者は増えていないと説明して来ています。要するに政府がワクチン接種を進めた効果をアピールしたかったようです。しかしそれが入院制限になったということは、これまでの説明がオリンピック開催のための方便だったということになります。入院患者が増えることはデルタ株が猛威を振るったインドやインドネシアなどを見れば容易に予測できたことで、政府はオリンピック開催反対論を封じるためにデルタ株の影響を小さめに説明していたことになります。

一方では感染者数が増加すると飲食店には飲酒提供禁止を迫り、銀行を通して圧力を掛けようとしました。また緊急事態宣言や蔓延防止等措置については要請があれば速やかに発令しています。これは重症者の増加の増加を防ぐためと考えられます。

ならばこの間に入院病床の拡大を進めるべきでしたが、そんな努力は聞こえてきません。人口1,000人当たりの病床数は日本が13.0床で、主要7カ国では、ドイツ8.0床、フランス5.9床、イタリア3.1床、米国2.9床、英国2.5床などに比べて圧倒的に多くなっています(OECDデータ)。なのに、これらの国で入院制限をしていないのに日本が行うということは論理的におかしいのです。日本の場合、厚生労働省が感染症は保健所と公立病院で対処するという制度を敷いてきました。そのため民間病院は管轄外としてコロナ感染者の受け入れに消極的です。一方厚生労働省は公立病院の統廃合を強力に進めてきましたから、感染症患者を受け入れられる公立病院の病床は激減しています。これらの体制は未知の感染症はもう流行することはないという前提で構築されており、現実に大流行が発生したら即座に改める必要がありました。しかし厚生労働省はかたくなに改めず平時の体制を維持しています。そしてこれに対して政府は何もしていません。ここに最大の問題があります。入院病床がないのではなく民間病院にはたくさんあるのです。これを使わせないというのが問題なのです。民間病院としては、感染症治療のノウハウがないということもあると思います。しかし感染症治療のノウハウがないのは、公立病院も同じです。公立病院でやっている治療も担当医師のこれまでの経験と知見に基づくもので、コロナ治療専門医は存在しません。それでも救える命は救えますから入院はとても大切です。もう一つ民間病院が受け入れないのは、受け入れて院内感染が発生した場合に病院の経営が成り立たなくなる恐れがあるからだと思います。こちら方が大きいのではないでしょうか。これに対しては政府でもし院内感染が発生し休業する事態になった場合は、休業補償を行うなど、コロナ患者入院受入れで不利益を受けない、と言うよりコロナ患者を受け入れれば儲かる制度を作る必要があります。コロナ患者を受け入れたら成金になるくらいの財政支援制度が必要なのです。政府にはこれが欠けています。

日本医師会は最近緊急事態宣言を全国に拡大することを求めていますが、コロナ感染者の入院受入れを拡大するとは決して言い出しません。まるで火事場の外にいて自分の家への延焼防止のために周りの家屋を撤去するよう訴えているようです。

政府は国民に入院制限を言う前に民間病院の受け入れ義務化を定めた法律を制定すべきです。