人事院勧告は支払い原資にも触れないと
人事院は8月10日、2021年度の国家公務員のボーナスを0.15カ月引き下げて4.30カ月とする一方、月給の改定は見送るよう国会と内閣に勧告したということです。人事院の調査によると、民間企業のボーナスは4.32カ月で、これに対し公務員は4.45カ月と上回っており、0.15%引き下げて格差をなくすのが妥当という判断です。月給については、公務員が40万7,153円で民間を19円上回っているだけなので据置という勧告です。
人事院勧告は毎年の定例行事で、いつも民間企業のボーナス支給実績と給与実績に基づいて勧告されています。しかし民間企業出身者がいつも不思議なのは、支払い原資については全く触れられていないことです。民間企業の場合、先ず支払い原資ありきです。利益予想からボーナスや月給に割り振れる金額を決め、そこからボーナス支給額(月数)や月給が決まります。
一方公務員の場合、人事院勧告には支払い原資については全く触れられていません。勧告が支払者である政府に影響を与えないのならそれでよいかも知れませんが、政府は人事院勧告を尊重することになっています。従って最近は毎年人事院勧告通り実施されています。
ということは、人事院勧告は支払い原資についても考慮されていないとおかしいことになります。国の歳入が不足する中でボーナスの増額や給与の引き上げ勧告は無責任過ぎます。
またボーナスの支給月数については、民間企業の実績と比較したとなっていますが、民間の実績が一般人の感覚と乖離することが多くなっています。例えば今年の勧告では、公務員の昨年の支給実績が民間より0.13カ月良かったことになっています。昨年は民間も4.45カ月あったということですから、民間のボーナス支給月が昨年より0.13カ月悪化したことになります。しかし今年6月経団連が発表した調査結果によると、ボーナス支給額は前年から7.28%の減少となっています。これは0.32ヶ月分(4.45×0.0728)の減少であり、人事院が主張する0.13%の倍以上の減少となります。この問題は人事院が実績をとった民間企業のデータを明らかにすればよいのですが、明らかにしていないため、データを操作しているのではないかという疑義が生じます。
政府が人事院勧告を受け入れると地方公務員の賞与および給与が人事院勧告に沿って決まりますが、これなど操作しない限り、人事院勧告の数字に合わせることは不可能です。それは地方の場合、人事院が調査した企業より小さな企業が多く、コロナの影響が大きく出るからです。昨年も多くの地方人事委員会が人事院勧告に沿った勧告を出していましたが、いかさま勧告と言ってよいと思われます。こういうことをしているから日本はどんどん衰退するのです。
川本人事院総裁はマッキンゼー勤務が長いようですので、事実主義は叩き込まれていると思います。人事院の賞与・給与勧告では、支払い原資についても説明し、かつ民間企業の支給実績調査は公開するなど一般人にも納得感のある勧告にして頂きたいと思います。