自民党支持者から「とりあえず自民党」が消えた

8月22日に行われた横浜市長選挙で野党推薦の山中竹春氏が自民党推薦の小此木八郎氏を破り当選しました。小此木氏は直前まで国務大臣国家公安委員長を務めており、菅首相の側近でもありました。菅首相の評判が高ければ圧勝してもおかしくない人ですが、この頃の菅政権の支持率は30%を割り込んであり、この影響をもろに受けたものと思われます。これは7月4日に行われた東京都議会議員選挙に続く大きな選挙での敗北であり、自民党は危機感を強めているようです。

しかし横浜市長選挙の結果を見ると政党色はあまり感じられません。と言うのは投票が5名の著名な候補に分散しており、推薦政党が決め手になったようには思えません。獲得票数は、当選した山中竹春氏は506,392票、2位の小此木八郎氏は325,947票、3位の林文子氏は196,926票、4位の田中康夫氏は194,713票、5位の松沢成文氏は162,206票となっており、自民党系と言われる小此木氏と林氏を合わせると522,873票となり当選した山中氏を上回ります。更に維新系の松沢氏の表を合わせると685,079票となり、山中氏を178,687票上回ります。田中康夫氏は野党系として山中氏と合算すると701,105票となり、与党系を16,026票上回ります。横浜市長選を国政の与野党で見るとほぼ互角だったということが言えます。与党が小此木氏1人に候補を絞っていれば、与党が勝った可能性があります。従って、東京都議会議員選挙の結果とはかなり違うと考えられます。東京都議会議員選挙の結果には政党色が強く表れ、横浜市長選挙には政党色よりは候補の主張やパーソナリティが得票を左右したと思われます。これは東京都知事選挙とも異なる特徴であり、オープンな街横浜独特の傾向のように思われます。

東京都議会議員選挙と繋がっているとすれば、自民党推薦候補に必ず投票する自民党支持者が減少していると思われる点です。以前なら岩盤のような自民党支持者がおり、候補の主張や人柄に関係なく自民党系候補に投票していました。東京都議会議員選挙でこれが消え、横浜市長選挙でも弱いように思われます。それよりも個人として投票しているように感じられます。

新聞の政権や政党の支持率調査を見ると、菅政権に対する支持率は20%台にも拘わらず自民党支持率は30%半ばになっている例が多くなっています。私の感覚では、コロナに対する政府自民党の無策で国民が苦しんでいる中で自民党支持率が30%半ばあることが信じられません。もしこの数字が正しいとすれば東京都議会議員選挙で自民党が惨敗し、横浜市長選挙で小此木氏が敗れることは無かったと思われます(小此木氏の得票率は21.6%。ただし林氏と合わせると34.7%と自民党支持率に近い。)

ここで考える必要があるのは、新聞の調査で自民党支持と答えている人たちはどういう人たちかということです。自民党の特徴的な主張としては、憲法改正と靖国神社参拝が浮かびますが、有権者の中で憲法改正を重要視している人がどれくらいいるでしょうか?殆どいないと思います。そもそも日本の場合憲法は生活に浸透していません。念仏やお題目以下の存在です。また終戦記念日になると自民党の大物が靖国神社に参拝し、自民党らしさを見せますが、これを評価するのは戦争経験のある高齢者であり、戦争体験のない者にとっては意味不明のパフォーマンスのように思われます(小泉進次郎議員の靖国神社参拝はパフォーマンスの典型です)。

このように自民党を熱烈に支持する理由がないのです。それでも新聞の調査に支持政党として自民党と答える人が多いのは、居酒屋に行って「とりあえずビール」と言うのと近いのではないかと思われます。ビールがとりわけ好きではないけれど、誰も嫌いではないところから、全員で乾杯するためにとりあえず注文します。後は個人の好みに応じ日本酒や焼酎、ウイスキーの水割りなどに移行します。ということは本当に好きな物はビール以外にあるということです。新聞の政党支持調査もこれと同じで、無党派というのは恥ずかしい人が一番無難な自民党の名前を出している可能性があります。即ち、自民党支持者には「とりあえず自民党」が多く、選挙ではこれと無関係に投票していると思われます。そう考えると東京都議会議員選挙と横浜市長選挙の結果は理解できます。これは全国的傾向と思われ、新聞調査の自民党支持者のうち4割程度は「とりあえず自民党」で、投票には繋がらないと考えると、次の総選挙で自民党は議席を半減すると予測するのが妥当です。