サントリーは本社を海外に移転する!?

9月9日、サントリーの新浪社長が経済同会のセミナーで45歳定年制を提言して話題となりました。ネットを見ると多くのサラリーマンと思われる人が経営者のエゴと反発しています。確かに今45歳定年制になったらほとんどのサラリーマンは生活が成り立たなくなります。45歳と言えば子供の教育や家のローンで出費が嵩み、貯えも少ないときです。それに体力的にもまだまだやれる自信があります。だから多くの人が反発するのは尤もです。

余りの反発の大きさに新浪社長は、提言の意図はリストラではなく、社員は早くから勉強し入社した以外の企業で活躍することも選択肢に加えた方が良いという主旨だと釈明しました。現在60歳定年、希望すれば65歳まで雇用維持のシステムが出来上がっており、これを45歳定年制に変えるには20~30年の時間が必要です。従って45歳定年制が実施されるとしても20~30年後となります。その場合理屈上、60歳(65歳)までに支給されていた生涯賃金を45歳までに支給する賃金体系の変更が必要となりますので、これを実施できる企業は多くないと思われます。多く企業が今の60歳(65歳)定年制のままになると思われます。

新浪社長が45歳定年を言い出した背景には、政府が70歳雇用義務化に向け動き出したことがあります。新浪社長も同セミナーの中で、これは押し返さなければならないと述べています。これについては本当に危機感を持っていると思われます。人は50歳を超えた辺りから体力が低下し、様々な慢性疾患を抱えるようになります。高血圧や糖尿病、心疾患などです。これらを持つと仕事をセーブするようになりますし、働く気力が失せてきます。従って体力的には50歳で一旦雇用契約を終わりとし、実力や体力、意欲、経済状況などに応じて雇用延長や転職、悠々自適の生活など選択するのが良いように思われます。60歳定年制はこれを福祉的観点から延長したものであり、企業活動の観点からはこれが限界という水準であると思われます。企業の中では業務の性格上65歳から70歳までの人に与えられる仕事がないところもあります。またこれらの人がいることにより職場の活力が低下することが危惧されます。45歳定年制の提言は社員の意識改革の面が強いですが、こちらは差し迫った危機感と言えます。

こう考えると新浪社長の45歳定年制は、政府が推し進めようとしている70歳定年制を押し返すために持ち出されたものであることが分かります。70歳定年制に対して企業は45歳定年制を望んでいますよと言い、現状の65歳までの雇用義務で留める作戦のように思われます。

新浪社長の45歳定年制の提言に対してネットでは、サントリーで導入してから提言すべきとの声がいくつかありました。もっともな主張です。しかしサントリーでは導入できないはずです。サントリーは家族的な会社であり、60歳定年制(65歳まで雇用延長?)で業務が回っている会社です。45歳定年制では業務が回りません。新浪社長がこんな出来もしないことを言ったのは、新浪社長が製造や販売の現場を持たない持ち株会社サントリーホールディングの社長であるためと思われます。サントリーグループの製造や販売は、サントリー食品インターナショナルやサントリー酒類、サントリーワインインターナショナル、ビームサントリーなどの子会社で行われています。それに新浪社長は政府の経済財政諮問会議議員を務めており、ご意見番的な立場になっていることもあると思われます。

こういうことで新浪社長の45歳定年制は当面動くことはありませんが、これをきっかけにサントリーホールディングは本社を海外に移すことを検討すると思われます。

サントリー製品の売上の半分近くが海外となり、今後逆転することが予想されます。そうなると統括会社を日本国内に置いておく必要はなく、海外の方が適切とも考えられます。これを後押しするのが70歳雇用義務化の動きです。これは年金問題から出てきており、企業経営の観点からは受け入れられません。特に国際企業においてはそうです。だからサントリー以外の国際企業でも本社の海外移転を検討すると思われます。ただ新浪社長の45歳定年制の発言もあり、サントリーホールディングが早くなると思われます。

実はサントリーホールディングにはこれを考えなければならない逼迫した事情があります。それは、サントリーホールディングは創業家佐治・鳥井一族の持ち株会社寿不動産が89.5%の株式を保有している同族会社ですが、この体制を維持することが国内では難しくなっているからです

サントリーホールディングは上場会社サントリー食品インターナショナルの約60%の株式を保有しており、これだけでも約9,000億円の資産(2021年9月24日の株価から)となります。その他にも優良子会社が多く、ビーム買収という壮大な事業承継対策もその効果が切れかかっており、サントリーホールディングの時価総額はいずれ1兆円を超えてくると予想されます。その約90%の9,000億円以上が寿不動産の資産価値となり、株式の相続が発生すると巨額の相続税がかかります。寿不動産の株主は佐治・鳥井一族18人となっていますが、1人当たりで見ると500億円以上の評価額となります。株主の誰かが死亡するとこれに約55%の相続税が掛かってきますので、いずれ同族会社体制を維持できなくなります。これが佐治・鳥井一族の最大の悩みになっていると思われます。この解決策としてサントリーホールディングをシンガポールに移転し、同時に寿不動産も本店をシンガポールに移転することが考えられます。また寿不動産の株主と相続人もシンガポールに移住します。シンガポールは相続税が掛からないので、これにより寿不動産株式の相続税対策に悩まされることがなくなります。こういうことでサントリーホールディングは割と近い将来シンガポールに移転すると思われます(寿不動産が先になるかも知れません)。以上勝手な想像です。