自民党から離れたのは無党派の「とりあえず自民党」層

自民党総裁選後高市陣営の報告会で高市氏を支援した安倍元首相は、「高市氏の出馬によって離れていた自民党保守層を引き戻すことが出来た」と述べたようですが、これは間違いです。安倍首相の頭には今年7月の東京都議会選挙での敗北があると思われますが、ここで予想外に自民党が得票できなかったのは、保守層が離れたからではありません。無党派の「とりあえず自民党」層が離れたからです。仲間と居酒屋に行くと大抵「とりあえずビール」となります。全員で乾杯するためには、全員が嫌いでない無難なものを注文する必要あるのです。選挙で言うならこれまで自民党がビールの位置にありました。これに変化が生じているのです。

保守層は死ぬまで自民党支持であり、他に支持できる党がありません。あるとすれば日本維新の会(維新)ですが、東京都議会議員選挙で維新は全く伸びていません(1議席で現状維持)。保守層は死ぬまで自民党支持と考えてよいと思います。自民党総裁選を見ても保守層に強いはずの高市氏の党員党友票は74票で19.4%でした。ということは、自民党の党員党友の中には、保守層は20%もいないことになります。リベラルと言われる河野氏が44%獲得していますので、党員党友にはリベラルが多いことになります。党員党友でこうですから、一般の有権者ならこの傾向がもっと大きくなります。だから東京都議会選挙や横浜市長選挙での敗北を保守層が離れたことに求めるのは違うことになります。

今回の自民党総裁選挙では、最初泡沫候補だった高市氏がネットで熱狂的な支持を受け、瞬く間にダークホースに躍り出ました。これは高市氏がユーチューブで発表した政策の完成度が大変高かったためです。政策でネット民の高い支持を受けた初めての自民党総裁候補だと思われます。ここでネットの高市支持のコメントを見てみると、「もう自民党には投票しないつもりだったが考えが変わった」「高市首相なら総選挙では自民党に投票する」というコメントが多くみられました。これから、ネット民には自民党に投票していた人が多いということが分かります。それでもこの人たちは、政党支持調査に自民党と答える人達ではなく、支持政党なしと答える所謂無党派層に当たると考えられます。

ネットに書き込みをする人はネトウヨと呼ばれ右翼の位置づけですが、内容は極めて論理的で、高市氏の政策を支持し、期待したものとなっています。高市氏の政策は幅広くかつ豊富な知識・データに基づいており、相当の理解力が必要です。高市氏を支持するネット民は知的水準が高い人たちということが出来ます。そのため投票に当たっても良く考えており、安倍政権のようなお友達優遇、法律を曲げる政治は許せないが、かと言って立憲民主党は頼りないとして、「とりあえず自民党」に投票してきた人たちだと思われます。これが自民党政権のコロナ無策への不満もあり、「とりあえず自民党」を止めたと考えられます。これが表面化したのが今年7月の東京都議会議員選挙です。

自民党総裁選挙ではネット民から圧倒的支持を受けた高市氏は3位に沈んでおり、ネット民とそれ以外の有権者との間には相当の認識ギャップがあることが明らかとなりました。一方河野氏が5割を超えると予想された党員党友票を減らし(44%)、130票程度と予想された議員票が87票まで減ったのは、ネットで政策や性格、同族会社と中国との関係などが指摘され、考え直す党員党友や議員が多かったためと考えられます。高齢者においてはネットを見ない人が多数派であり、ネット世論が社会全体の世論となるにはもう少し時間が掛かりそうですが、ネット世論が選挙に与える影響は確実に大きくなっています。従って自民党は、これから自然に減少する保守層を呼び戻すことではなく、状況により判断を変えるネット民に「とりあえず自民党」と言わせることが重要となります。