ソフトバンク宮川社長を追い込む自社株200億円の恐怖
ソフトバンクは11月4日、2022年3月期の中間決算を発表しました。売上高は前年同期比12.2%増の2兆7,242億円、営業利益は前年同期比3.2%減の5,708億円と、増収減益の決算となっています。減益の要因は携帯電話料金引き下げで約260億円とのことです。現在5Gのインフラ整備に積極的な投資が必要な時期を迎えており、「これが5年、10年も続くとなると、通信インフラの整備をどこかで見直していく時期が来るかもしれない」と述べたということです。これは「携帯料金値下げが続けば設備投資が減り、5G通信網の整備が遅れますよ」というブラフです。
これは宮川社長の詭弁です。ソフトバンクの営業利益は、通期で1兆円を超えます。それに対して通信設備投資は4,000億円程度です。この金額と同額程度が減価償却費(過去の設備投資の期間分割分)として費用に計上されて1兆円を超える利益ですから、設備投資には殆ど影響ないことが分かります。そして携帯料金の値下げによる影響はわずか年間約500億円に過ぎません。NTT、KDDIも同程度の影響があるとしても値下げの影響は3社合計で1,500億円(売上は約15兆円)にしかなりません。これは売上の1%程度であり、菅首相が言った「4割の値下げ」の40分の1にしか過ぎません。それにソフトバンクの通信の営業利益率は20%程度あります。同じ公益事業である電力会社は5%程度です。宮川社長が設備投資に影響が出ると言うのは、営業利益率が5%に近づいた段階でないといけません。
宮川社長がこのようなブラフをかませるのは、ソフトバンクには財務上の弱みがあるからです。ソフトバンクの2021年3月期の自己資本は約1兆5千億円とKDDIの約4兆8千億円と比べると3兆3千億円少なくなっています。これは、ソフトバンクは2018年12月に株式公開するまでソフトバンクGの内部子会社で、利益は殆どソフトバンクG本体に吸い上げられていたからです。そしてソフトバンクGは吸い上げた資金をアームやスプリントなどの買収資金に使ったのです。だからソフトバンクの自己資本(貯え)は少なくなっており、NTTやKDDIと比べて財務内容が悪いという問題があります。しかし自己資本を食いつぶして設備投資をやっている楽天と比べると天国と地獄の差があります。
それに加えて宮川社長には個人的に特殊な事情があるからです。宮川社長は社長就任後ソフトバンクGの孫社長に言われ、業績向上に責任を負うため会社から借金をして200億円分の自社株式(単価は1,435円)を購入しています。今後携帯電話料金値下げが進む環境において、この株価でこれだけの金額の自社株を購入するのは自殺行為としか思えません。投資に詳しい人ならとてもできない取引です。通常ならば宮川社長にはストックオプションが与えられるところであり、投資家の孫社長が技術屋さんの宮川社長をからかったとしか思えません。これが背景にあり、料金値下げ→業績悪化→巨額の含み損という悪夢が宮川社長を必要以上の恐怖に追い込んでいるものと思われます。
この宮川社長の弱気な発言により他の3社は、ソフトバンクは値下げ競争についてこれないとみて益々値下げ競争を仕掛けてきます。他の3社は携帯料金収入に依存しない経営体質への転換を進めており、携帯料金が電気・ガスなどの公共料金並みの利益率まで下がることは想定済みです。特に楽天にとって携帯電話事業は、楽天経済圏のインフラであり、高い利益を上げようという考えはありません。従って、これでもかというレベルまで値下げ競争を仕掛けてきます。そのときソフトバンクは、宮川社長の自社株200億円が経営判断を誤らせる原因になるかも知れません。こう考えると宮川社長の任期は長くないかも知れません。これでソフトバンクが沈めば、楽天がその穴を埋めることになり、携帯電話業界に地殻変動が生じます。そんな印象を与えたソフトバンクの決算発表でした。