新生銀行の買収は疾の昔に詰んでいる!

SBIによる新生銀行買収が大詰めを迎えています。新生銀行は11月25日に臨時株主総会を開催し、SBI以外の既存株主に新株予約権を与えてSBIの持ち株割合を低下させる買収防衛案を提案します。しかし私はこの攻防の決着はついており、新生銀行はもう詰んでいると思います。

新生銀行の大株主は預金保険機構約22%、SBI20%です。これで約42%ですから、預金保険機構が株主総会で新生銀行の提案に反対したら否決されること確実です。預金保険機構については、銀行を監督する立場だから棄権に回るとの説もありますが、それはないと思います。監督するのは金融庁であり、新生銀行に対する預金保険機構の立場はあくまで株主です。新生銀行の前身は日本長期信用銀行であり、バブル崩壊後の1998年不動産融資で棄損した自己資本を補填するため政府から約4,000億円の資本注入を受けます。その後業績が回復し約500億円を返済しますが、まだ約3,500億円が未返済となっています。これは普通株となっており、これを預金保有機構が市場で売却して回収するには株価が7,450円以上になる必要があります。新生銀行の株価は長い間低迷(2021年8月は1,400円台)しており、SBIが1株2,000円でのTOBを発表した9月9日以降の取引では1,900円台まで上昇しています。それでも尚7,450円には程遠い状況です。

新生銀行の当期利益は約500億円程度で横這いであり、今のままで株価が7,450円まで上昇する見込みは殆どありません。従ってこのままでは預金保険機構が持つ新生銀行の株式は長期塩漬けとなります。預金保険機構は経営に口出ししない超安定株主ですから、新生銀行にとっては全く問題ありません。むしろ新生銀行はこれを信用源に利用しているようにも見えます。そのため株価を上げるのに熱心でなく、かつ行員給与もメガバンク並みで利益を上げる意欲もないように見えます。

このような状況は、公的資金の回収も使命の1つである預金保険機構にとって我慢の限界に来ていると考えられます。預金保険機構は新生銀行およびSBI双方に今後の利益増加策を求めたようですが、両社とも2025年度の利益は700億円程度と大差ない結果となっています。こうなるとどちらの可能性に賭けるかということになります。新生銀行のこれまでの経営を考えると大きな変化は期待できず、SBIの証券化と組み合わせた経営革新に期待するという結論になると思われます。従って預金保険機構は株主総会で新生銀行の買収防衛案に反対すると考えられます。

それ以前にSBIはTOB発表前に新生銀行の今回の買収防衛案は想定済みであり、これを否決する多数派工作も終了していると見るべきです。SBIの北尾社長は野村證券出身であり、企業買収は得意分野です。実際11月12日には旧村上ファンド系の投資会社や香港の投資会社が各5%程度の新生銀行株を保有してることが明らかになっており、これは事前にSBIと連携した動きと想像されます。これ以外にもSBIと連携した投資会社がいくつかあり、これらを合わせると40~50%に達する株式がSBIによって確保されていると思われます。

それにSBIは買収防衛案が株主総会で可決されたら即座にTOBを中止すると言っていますので、その場合株価は8月の1,400円以下に低下します。そうなると多くの株主が損害を被るため、株主総会で新生銀行の買収防衛案に反対すると考えられます。この結果、新生銀行の買収防衛案は大差で否決されることになります。

このシナリオは、SBIが新生銀行に対するTOBを発表した9月9日時点で検証済みであり、対策も完成していたと考えることが妥当です。SBIの新生銀行に対するTOBは疾の昔に詰んでいます。