熊本には半導体人材育成機関が必要

熊本に世界最大の半導体受託企業TSMCが8,000億円投資して工場を造ることが決定したようです。この決定の要因は2つあって、1つ目は資金面で日本政府が投資額の約半分を助成することを約束したこと、2つ目は今でもTSMCの大口顧客であるソニーが熊本工場の隣接地を確保して協力体制を敷いたことです。更には日本電装の参画(出資?)も報道されており、今後TSMC熊本工場に参画する日本企業は増えると考えられます。TSMCが海外に進出するにはこの上ない条件が整っていると言えます。

熊本にはソニーのCMOSセンサー開発・製造拠点があるほか、ルネサスエレクトロニクス、三菱電機の半導体関連工場があり、日本有数の半導体産業集積地です。この原因は、半導体産業で大量に使う水と若年労働者に恵まれているためと思われます。TSMCも1,500人を雇用すると言われており、その反動で熊本の地元気企業では労働力不足が心配されているとの報道がありました。

しかし私はTSMCが熊本からどれだけ採用するかが心配です。単純労働者はそれなりに採用するでしょうが、半導体製造には高度な専門知識を持った人材が必要と言われており、果たしてそんな人材がどれだけ熊本にいるのでしょうか?ルネサスや三菱電機、更にはソニーから転職する人が増えることが予想されます。

結局TSMCの技術者は台湾や東京などの熊本以外で占め、熊本県人は単純労働に従事するということになりかねません。こうなると次の工場は労働力が確保できる別の県となりますし(ソニーの諫早工場のように)、TSMCの技術が熊本に蓄積しないことになります。今後熊本が半導体産業で日本の中心になるには、半導体人材の質と量が勝負になります。そのためには半導体人材の養成が重要となります。

TSMCの熊本工場の生産開始は2024年末と言われていますが、半導体人材の養成は直ぐにでも開始する必要があります。その方法としては2つ考えられます。

1つ目は、熊本大学に半導体研究センターや半導体学部を設置することです。講師陣はソニーやルネサンス、三菱電機、NTTなどから確保します。TSMCも協力してくれると思います。学生は高等専門学校や工業高校卒業者、あるいは大学工学部の半導体関係学科以外の卒業者を中心に募集します。その方が実践的教育ができるからです。

2つ目は、前記センターや学部を熊本県立大学に設けることです。熊本大学は国立大学であり、県立大学の方が県の政策に即した教育が出来るとも考えられます。現在熊本県立大学は文系学部だけですが、熊本の人材ニーズからすれば工業系学部が望まれます。会津大学や高知工業大学など県立の工業大学が成果を出していますし、奈良県でも奈良県立大学に理工系学部の設置を計画しています。これから県立大学に理工系学部を設置する流れが強まります。熊本県が計画している空港鉄道沿線にIT企業を集積させる計画でもIT人材の養成が必須であり、県立大学にコンピュータサイエンス学部を設置することが考えられます。

TSMCの熊本進出は、熊本の半導体人材不足という課題を浮き彫りにしており、この課題を解決をしないと半導体産業が熊本に根付くことにはならないと考えられます。