穏やかな人生を送るならメーカーがよい
私はメーカーに約10年、金融機関に約20年勤務しました。メーカーと金融機関では相当異なった人生になるように思われます。
先ず大学卒業後入社したのは売上高1兆円を超える老舗メーカーでした。そのメーカーでは最初法務部に配属されました。ここは有力大学の法学部出身者が10名くらいいて、大学の延長のような雰囲気でした。皆さん人柄がよく、人間関係で悩まされることはありませんでした。そこで3年くらい過ごした後販売管理部門に移動しました。ここは全国に100社ほどある販売会社の経営管理を行う部門です。ここで損益計算書や貸借対照表、資金切り表など企業活動を分析する道具を学びました。その結果会社に入るなら法律知識より財務会計知識が重要だと痛感しました。どこの会社も販売(営業)部門は重要で、役員を排出します。この会社の販売部門は早慶OBが中心で、10人くらいの部長は早慶が半々でした。販売部門の幹部となる人は人扱いが上手く、見た目も上品な人が多くなります。今思ってもこの会社の販売部門の幹部は他の一流企業の幹部と比べても見劣りしなかったと思います。メーカーで出世する人の特徴としては、先ず人柄が良いことが挙げられます。頭は良いけれど人柄は悪い人は出世しません。同期数百人の中から最後に役員になるのは、多数の社員から慕われる人です。メーカーでは個人の実績が数字に表れないことが多いので、業績競争よりも人柄競争になるように思われます。
私は32歳のときこのメーカーでの企業管理の経験を基に金融の世界に飛び込みました。金融と言っても銀行や生損保と言うような伝統的な業界ではありません。将来有望な企業に投資する業界です。当時行っていた投資はまだそれなりの売上と利益がある中堅企業が中心でしたので、メーカー時代に身に付けた企業分析の知識と法律の知識が役に立ちました。仕事の質としては何十年も続いているメーカーと新興業界の新興企業では雲泥の差がありましたが、新興企業には自分らが新しく業務を作って行くという楽しみがありました。その後投資の対象は中堅企業からスタートアップの企業に移って行きます。そのとき私が手掛けたのがバイオや創薬などのライフサイエンスの分野です。0からのスタートだったので勉強の毎日でした。そんな状況で何億円も投資するのですから、ハラハラドキドキです。事業投資は、半分も当たれば(株式公開まで行けば)良い方で、当たれば投資した金額の数倍から数十倍の利益が出ますが、外れれば投資した金額(数億円もある)が0となります。当たったときは有頂天になり、態度がでかくなります。その分外れたときは周囲から袋叩きに会います。まるでジェットコースターに乗っているような人生になります。そのため投資担当者には定年退職は期待できません。途中どんなに成功しても、最後は失敗して会社を辞めることになります。その間報酬は多くなりますが、成功失敗の振幅が大きく、穏やかな生活は期待できません。ただし金融機関と言っても銀行や生損保は金融庁の監督下にあり、こんなアクロバティックな仕事は許されません(系列会社でやる)ので、もっと穏やかに人生になると思われます。それでも数字で個人の業績が評価される仕事なので、数字に追われる人生になります。その結果数字を上げた人が出世し、実績に基づくパワハラが横行することになります。金融機関は収入は良いですが、精神衛生上は良い職場とは言えません。穏やかに人生を送りたいならば、メーカー、それも東京以外に本社があるメーカーが良いと思います。