関西スーパー裁判、大阪高裁の判決は間違っている!
関西スーパー(2021年3月期売上高1,308億円、営業利益27億円)とエイチ・ツー・オーリテイリング(H2O。阪急・阪神百貨店グループ)の統合に関する株主総会の決議を巡り、地裁と高裁で判断が分かれ、最高裁の判断を仰ぐこととなっています。
事案はこうです。最初に関西スーパーにTOBによる買収を申し入れたのは関東のディスカウントストアオーケー(2021年3月期売上高5,088億円、経常利益327億円)でした(2021年6月)。これを嫌った関西スーパーはH2O子会社のスーパー(阪急オアシス)と経営統合し、H2Oの傘下に入る決定をします(同年8月)。これに対しオーケーは関西スーパーの株主総会で統合案が否決されることを前提に、改めてTOBを表明します。
そこで10月29日関西スーパーの株主総会が開かれます。株主に対して双方から激しい働きかけがあったようで、賛否は承認に必要な議決権の3分の2を巡り緊迫した票数となります。その際ある法人株主が奇妙な投票行動をとったため問題が生じます。それは総会前に議案に賛成の意思表示をした議決権行使書を送付しておきながら、当日の株主総会に出席し、改めて棄権を示す白票を投じたのです。ここで当該法人株主の議決権行使書を有効だとすると賛成が66.8%となり統合は承認され、白票により議決権行使書は無効となったとすれば賛成が65.71%となり否決されることとなりました。ここで関西スーパーは投票締め切り後当該株主が「白票は議決権行使書を提出していたので改めて議決権は行使しないと言う意味だった」と述べたことから、この株主の議決権行使書を有効として66.8%の賛成があり、統合は承認されたと決定しました。これに対してオーケーは、総会で行使された白票が当該株主の投票となり、投票が締め切られた後の当該株主の意思は考慮されることはなく、統合の賛成は承認に必要な議決権の3分の2に達していないとして、統合手続き差し止めの仮処分を求めて神戸地裁に提訴しました(11月9日)。神戸地裁はオーケーの主張を認め、統合手続き差し止めの仮処分を出します(11月27日)。今度は神戸地裁のこの判決を不服として関西スーパーが大阪高裁に控訴します。これに対して大阪高裁は関西スーパーが採った対応は株主の意思を尊重したものであり、著しく不公平とは言えないとして神戸地裁の決定を取り消しました(12月7日)。この決定に対しオーケーは最高裁に抗告し、最高裁で最終決定されることとなりました。
この問題の焦点は、議決権行使書と総会当日の白票および投票締め切り後の株主意思の取扱いとなります。これについて神戸地裁は関西スーパーが採った取扱いは「法令違反または著しい不公正」と指摘し、投票という総会実務の形式を重視して「出席株主は、投票用紙以外の方法で議決権を行使することはできない」として、賛成票にカウントすることを認めませんでした。一方大阪高裁は、株主は事前の議決権行使で統合案に賛成しており、当日は二重投票を避ける理由で用紙に何も書かず(白票)投票した。通常の総会実務では、事前に議決権を行使していても、当日に出席すれば事前の意思表示は消失するが、こうしたルールの周知や説明が十分にされておらず、株主が間違って白票を投じたことは「やむを得ない」とし、「認識不足や誤解のために、意思が正確に反映されない場合にまで用紙のみで判定することは、かえって株主の意思を正確に反映させるという制度を採用した趣旨にもとる」として関西スーパーの取扱いを妥当として、総会の承認決議は有効(神戸地裁の判断は間違い)と判断しています。
この大阪高裁の判断については、法曹界の評価が分かれているようです。東大の田中亘教授(会社法)は「地裁決定は、会社の周知不足で当該株主が総会に出席しても、事前の議決権行使は効力を有していると誤解していた事情を考慮していなかった。高裁はその点も考慮しており、妥当な判断」とし、株主総会の実務に詳しい久保利英明弁護士は「本来、総会に出席する株主なら、当日出席(の議決権行使)が優先されることは分かっている。投票の際に個々人がどこまでルールを理解しているかをチェックできるはずもなく、実務的な観点からは良くない判断」(以上神戸新聞記事より引用)としています。
私は、大阪高裁の判断は間違っており、神戸地裁の判断が妥当だと考えます。関西スーパーが今回当該法人株主に意思確認したのは、何としても統合案の承認を得るためであり、株主の意思を議決に正確に反映しようとしたためではありません。当該株主が議決権行使書で反対の意思表示をしていたら、意思確認はしていなかったと考えられます。もし株主の正確な意思を反映させるべきと言うのなら投票の締め切り後も賛否変更が可能ということになり、株主総会が混乱します。今回の場合経営統合を承認するか否かが株主全体にとって最も重要なことであり、大阪高裁が株主の意思を尊重すべきと言うのなら、株主総会をやり直すことが一番です。今回のような重要な議案の承認・不承認を左右する投票の取扱いが問題になる場合は、法律解釈で解決するのではなく、株主総会をやり直して解決すべきです。