熊本大学半導体研究センターは3年次編入学生を中心に
12月8日、熊本大学は「半導体教育・研究センター」(仮称。以下半導体研究センター)を来年4に設置することを発表しました。これは世界一の半導体受託製造企業TSMCが熊本に工場を造ることが決まり、半導体人材の不足が浮き彫りになったことに伴う対応です。TSMCが熊本工場建設を正式に発表したのは11月9日ですから、熊本大学の半導体研究センター設置発表まで1カ月であり、まれに見る迅速な対応です。これは今年4月1日に就任した小川学長効果と言えます。小川学長の就任記者会見の新聞記事(4月5日付読売新聞)を引用すると、
「熊本大の新学長に就任した小川久雄氏(68)が1日、就任会見を開き、「経営や研究に関する情報を国内外に発信し、社会に貢献する研究拠点として、発展し続ける大学を目指す」と抱負を述べた。具体的には、大学の開放を通じた企業との研究・教育連携の促進、新たな学部設置などに意欲を見せた。大学運営の面では▽学部教育のグローバル化▽研究支援体制強化▽新たな研究分野の掘り起こし――などを挙げ、「トップセールスで積極的に研究費を獲得し、先端研究に磨きをかける」と強調した。」
となっていますから、新学部の設置、新研究分野の開拓のチャンスに網を張っていたことが分かります。そしてTSMCの熊本進出に伴う半導体人材不足をチャンスと捉え、トップダウンで迅速果敢に動いたことが伺えます。この小川学長の才覚は、前職である国立循環器病センター理事長職によって培われたものと思われます。これくらいの才覚がないと日本の循環器治療・研究トップ機関の長は務まらないのでしょう。
今後はこの半導体研究センターから優秀な人材を送り出せるかが焦点となりますが、成功の肝は半導体の経験豊富な指導陣と優秀な学生を集められるかです。指導陣についてはソニー、キオクシア、ルネサス、三菱電機、東京エレクトロン、インテルなどの半導体企業のベテラン技術者を招くことで確保できると思われますが、問題は学生です。熊本大学工学部の偏差値は45~50となっており、通常の大学入試では真ん中から少し下の学力レベルの学生が集まることになります。これでは素材として不十分です。それに早期の戦力化が求められます。そこで学生の選抜に工夫を凝らす必要があります。考えられる方法としては、次のやり方があります
- 全国の大学工学部2年修了者(または卒業者)に募集を掛け、3年次に編入する。
全国の難関大学の工学部に入学したけれど半導体がやりたいという学生(または卒業者)をAO入試で募集し、合格者は3年次に編入します。大学の2年間の履修が省け、実践的教育が実施できます。そして大学院進学を前提として4年間の教育を実施します。
- 全国の工業高等専門学校(高専)に募集を掛け、3年次に編入する。
熊本大学工学部の偏差値を見れば分かるように、地方の国立大学の学生は偏差値で割り振られており、高校普通科からの進学ではこれを上回る学生は集まりません。工学部進学者に関しては高校普通科より高専からの進学者の方が優秀と考えられます。それに高専では相当の基礎技術教育を受けており、直ぐ実践教育ができます。この点では大学生の3年次編入者を上回ります。従ってここは狙い目です。高専からの3年次編入者も大学院進学前提の4年教育を実施します。
3. 高校普通科と工業高校卒業者を通常の大学学部と同じ教育プロセス(4年学部+2年大学院)で募集する。
熊本県内の工業高校に半導体関係の学科を設け、半導体研究センターとの一貫教育(自動進学)とすることも考えられます(これからは高校・大学一貫教育の時代)。上の2つで定員を満たすようであれば、この部分は不要かもしれませんが、長期的に見れば欠かせないと思われます。
東大がある東京、京大がある京都、阪大がある大阪、名大がある愛知、九大がある福岡と言うようにその地方にある国立大学のレベルが各地方(都道府県)の経済・文化のレベルを決めているところがあります
熊本大学は全国の中位に位置付けられており、その結果熊本県は全国中位の県(ただし1人当たりの県民所得は全国40位以下)となっています。熊本県を全国上位の県にするためには熊本大学の強化が欠かせませんが、そのためには半導体研究センターを全国トップの研究教育機関にする必要があります。熊本県の浮揚が掛かっており是非成功させて欲しいプロジェクトです。