「思いやり予算」の呼称を使い続ける新聞・テレビは馬鹿?

「思いやり予算」と言う言葉を聞いたことがある人は多いと思います。しかしそれが日米安全保障条約に基づき米軍が日本国内に駐留する経費の一部を日本側が負担している額を指していることまで知る人はぐっと減ると思われます。そのためこの「思いやり予算」という言葉が新聞やテレビで大手を振って使用されています。

しかし「思いやり予算」という言葉にはどこか裕福な者が貧しい者に恵むような響きがあり、軍事費に対して使うことに違和感を感じる人も多いと思います。日本の安全を守るために駐留する米軍の経費の一部を負担することが「思いやりか?」という問題です。

私が「思いやり予算」という言葉聞いたのは30年以上前ですが、そのときは「Japan as NO.1」という本が発売され日本が米国を追い越しそうな勢いの頃で、米国も財政的に苦しく日本が助けてやるのだろうと思っていました。しかしその後日本のバブルが崩壊し日本はまた元のように貧しくなりましたが、「思いやり予算」は廃止されるどころか増額の話題ばかりとなりました。一方日本を取り巻く安全保障の状況は、世界的にも貧しい国だった中国が米国に次ぐ経済大国になり、軍備も米国に次ぐ規模となって日本を脅かすようになっています。その結果在日米軍の存在は、「思いやり予算」が出来た当時より遥かに重要な存在になっています。現在尖閣諸島では中国と領有権を巡る争いがあり、いつ軍事衝突があってもおかしくない状況です。この状況においては日本が米軍に国内基地の撤去を求めるという選択肢はなく、むしろ駐留経費を払うから駐留して欲しいというのが実情です。私は、このような環境の変化においても新聞・テレビで「思いやり予算」という施し的な響きのある言葉が使い続けられていることに疑問を持っていました。新聞・テレビが「思いやり予算」という言葉を使うのは、法律や予算書などの公文書に「思いやり予算」という言葉が使われているために違いないと思っていました。ところが12月7日朝日新聞のネットニュースを見て驚きました。朝日新聞の記事をそのまま引用すると、

『林芳正外相は7日の閣議後会見で、在日米軍駐留経費負担が「思いやり予算」と呼ばれていることについて、政府として「『思いやり予算』などという位置づけはしていない」と述べた。記者の質問に答えた。  同負担は米国の財政赤字などを背景に1978年に始まった。当時の金丸信防衛庁長官が「思いやりをもって対処すべき問題」と述べたことから、「思いやり予算」と呼ばれてきた。  今年度の思いやり予算は2017億円。内訳は基地従業員の労務費(基本給など)が1294億円、施設の光熱水費が234億円など。来年度以降をめぐっては、日米両政府が詰めの交渉をしている。  林氏は「日本を取り巻く安保環境がいっそう厳しさを増すなかで、この経費が日本の安全保障にとって不可欠」と強調した上で、「政府は従来、在日米軍駐留経費負担という呼称を使用している。思いやり予算などという位置づけはしていない」と訴えた。」

と書かれています。なんと「思いやり予算」という言葉は、1978年在日米軍駐留経費の一部(日本人従業員の人件費と日本国内施設で発生する水道光熱費などの経費で、米軍軍人の人件費や武器費など米国内にいても発生する軍事費は含まれていない)を日本側が負担することとなったとき、当時の金丸防衛長官が「思いやりをもって対処すべき問題」と述べたことから、新聞・テレビが使い始めたものであり、日本政府は一切使用していないというのです。それはそうでしょう。米国国防関係者の中には「思いやり予算」という言葉は米軍に失礼と述べている人もありますから、日本の安全保障を米軍に依存する日本政府が使える言葉ではありません。

リベラルと言われ、非武装的な立場の朝日新聞が林外相の記者会見での発言を通し、「思いやり予算」の誤使用を指摘したのは、私のように「米軍に失礼」という意味なのか、単に国語の間違いを指摘するためなのか分かりませんが、記者の問題意識が現れた刮目すべき記事です。しかしこの林外相の発言は他の新聞やテレビでは取り上げていません。そのためか翌日の読売新聞やテレビ朝日は「思いやり予算」という言葉を前面に出して米軍駐留費日本側負担の日米合意を報道しています。読売新聞も林外相の記者会見に記者を派遣し、また朝日新聞の当該記事をチェックしているはずであり、テレビ朝日については朝日新聞の子会社であることから当該記事は知っているはずなのに、改める気配がありません。社長決裁を採らないと改められないのでしょうか?こうなると「新聞やテレビは馬鹿?」と言いたくなります。