関西スーパー訴訟、刑事は裁判だけど民事は仲裁

関西スーパーの統合承認に関する株主総会決議に瑕疵があったとして、TOBを表明していたオーケーが提起した裁判は、12月14日最高裁が大阪高裁の判断は妥当として結審しました。最高裁は「議決権行使者の意思が議案に賛成するものであることが明確であったこと等、原審の適法に確定した事実関係の下では、所論の点に関する原審の判断は結論において是認することができる」(*原審とは大阪高裁のこと)と述べただけで、詳しい理由は触れていません。従ってこの判決は同様な事例があった場合の判例にはならないし、そもそも同様な事例は起きないと思われます。

関西スーパーの株主総会では、ある法人株主(仮にA社)が統合に賛成の議決権行使書を送付したあと株主総会に出席し、総会で白票(棄権)の投票をしました。通常このような場合、後の投票が有効として扱われますので、A社の投票は賛成から棄権に変わります。その結果、賛成は65.71%と承認に必要な投票数の3分の2(66.67%)にわずか0.96%足りず、このままでは否決されることとなります。そのため関西スーパーがA社の出席者に話を聞いたところ、A社の出席者は「議決権行使書を提出しているので、総会では投票しないという言う意味で白票を投じた」と言ったようです。これを当日裁判所から選任され、総会の監督に当たっていた検査役(弁護士)は、A社の意思は賛成ということであり、議決権行使書を賛成票に加えてよいと判断したということです。この結果賛成票が66.68%となり、統合案は承認されたと発表されました。

ここでは投票締め切り後に株主の話を聞き、棄権を賛成に変えたことが最大の問題となっていますが、その前にA社の出席者に投票用紙(議決権行使書)を渡したことが問題です。通常議決権行使書を送付したら当日株主総会に出席できないのはもちろん、議決権行使書が手元にありませんから投票のしようがありません。今回は何と受付で新たな議決権行使書が渡されたのです。このように今回の関西スーパーの株主総会では先ず受付の段階で不手際があっています。これは検査役の不手際でもあります。その後A社はこの議決権行使書に何も書かないで(白票)投票し、投票締め切り後検査役がA社の出席者の話を聞いて、A社の意思は賛成であり、棄権を賛成に変えたと言われています。しかし実際は、A社の出席者に受付で渡された議決権行使書が無効であったため、A社の総会会場での白票は棄権でなく、無効(カウントされない)と考えたものと思われます。

今回のオーケーの提訴については、オーケーが積極的に主張したと言うよりもオーケーの顧問弁護士が強硬に主張したものと考えられます。オーケーとしては承認に必要な議決権の3分の2に達していなかったとしてもほぼ3分の2の株主が反対しており、株主全体の反対の意思は明確です。関西スーパーも反対しており、このような状況でTOBを強行しても良い効果は出せません。従って社内的にはこれで終わりとする雰囲気だったと思われます。しかし顧問弁護士が明らかに商法違反の決議であり、これを放置したら今後の悪例となると裁判による決着を主張し、もっともなことからオーケーも同意したものと考えられます。

案の定第1審の神戸地裁はオーケー顧問弁護士の主張通りの判決を出しました。本件は弁護士の8割以上、法学部の学生ならほぼ全員神戸地裁の結論になります。ところが大阪高裁は「株主の意思を尊重すべき」であり、関西スーパーの株主総会での取り扱いを「不公平とまでは言えない」から問題ない(総会決議は有効)とし、最高裁も大阪高裁の結論を支持しました。

今回法律的にはおかしいように思われる大阪高裁や最高裁の結論は、高裁や最高裁の民事訴訟に関する考え方が色濃く反映されているように思われます。裁判所にとって裁判とは人の基本的人権に制約を加える刑事訴訟のみであり、経済紛争に関する民事訴訟は、本来紛争の当事者間で解決すべきところ、解決できない場合に当事者の要請により裁判所が仲裁するものなのです。この際仲裁を要請した当事者(原告と被告)は、仲裁結果に異議を述べないことに同意していることになるため、仲裁(判決)の結論に不満があっても最高裁の判断には従わざるを得ません。本件も同様であり、オーケーと関西スーパー間の話合では解決しなかったため、両社から裁判所に仲裁の要請があり、裁判所はこれに応じて仲裁してあげたことになります。この際神戸地裁は裁判と考え、まじめに法律解釈を行い決議に瑕疵があったとしたのに対し、大阪高裁は仲裁と考え「確かに実務上の取扱いはおかしいけれど、形式的にもほぼ3分の2の株主が統合に賛成しており、問題となる法人株主も賛成が真意なのだから、実質的にも3分の2の賛成があり、承認されたと取り扱ってよい」と仲裁結果の申し渡しをしたということです。従ってこの仲裁結果は、判例のような一般的効果は何もありません。それでも今回問題となった株主総会の会場で投票用紙を渡すとか、投票締め切り後に株主の意思を確認するなどの行為は、証券代行会社や株式実務雑誌などで禁止事項として徹底されることになりますが、多くの企業では現在も順守されていることであり、全く影響ないと言えます。最高裁判決後オーケーも結論を尊重すると述べ、関西スーパーに応援エールを送っているので、結論に不満はないことが伺えます。オーケーも株主総会で過半数以上の株主が反対した時点で、統合は断念していたと思われます。こう考えると大阪高裁および最高裁は老獪と言えます。

今回の大阪高裁および最高裁の判決に影響したのは、裁判所が選任した検査役の存在です。今回問題となった株主総会では、検査役が2つのミスをしています。1つは、議決権行使書を送付しているため総会に参加できなかった法人株主A社を総会に出席させ、かつ議決権行使書を新たに渡していることです。これは関西スーパーの受付担当者がやったことかも知れませんが、受付で問題になったはずで検査役に相談があったか、あって然るべきことですから、検査役の責任に帰属します。もう1つは、当日白票を投じた法人株主の意思を確認し、賛成と判断したことです。これは通常の取り扱いなら後で投票された白票が有効となります。検査役が総会で投じられた白票ではなく送付された議決権行使書の賛成をA社投票としたのは、受付で渡した議決権行使書がそもそも無効であり、白票がそもそも無効だったからと考えられます。

この検査役は大阪地裁または大阪高裁が選任したと思われ、本件が提訴された後、選任した大阪地裁または大阪高裁は、当該検査役を呼んで事情を聴いていると思われます。その結果大阪高裁も、総会の受付で渡された議決権行使書はそもそも無効であり、白票はなかったものと扱うのが妥当であり、承認されたという結果は妥当と判断したものと思われます。いずれにしても大阪高裁よび最高裁の判決には、本件総会に裁判所が選任した検査役が関与していたことが影響している(検査役の責任=選任した裁判所の責任)と思われます。