高校普通科を才能別学科に再編する必要がある
現在全国高校サッカー選手権もいよいよ決勝戦を残すのみとなりました。決勝は東の横綱青森山田高校と西の横綱熊本大津高校の対戦となりました。青森山田高校は中高一貫でサッカー以外でも野球や卓球、ラグビーなども強いスポーツ名門校です。一方大津高校は県立高校で、サッカー部の1枚看板です。青森山田高校の場合はサッカーや野球、卓球で優れた実績を上げた中学生をスカウトし、特待生として入学させているようですし、大津高校の場合は熊本県内を中心にサッカーが上手い中学生が入学してくるようになっています。この2つの高校のサッカー部に入学してくる生徒は、できたら将来プロサッカー選手やサッカーに関連する仕事に就きたいと考えていると思われます。
しかし、両校サッカー部の大部分の選手が属しているのは普通科です。普通科の中でコースが分かれ、青森山田高校がスポーツコース、大津高校が体育コースとなっています。普通に考えれば両校のサッカー部員が属するのは、スポーツという普通でない才能を伸ばす教育課程だからスポーツ科サッカーコースがしっくりきます。これが普通科という括りになっているところに教育制度の問題があるように思われます。
日本の高校教育制度では長い間、高校には「普通教育を主とする学科(普通科)」「専門教育を主とする学科(専門学科)」をおくこととなっていました。これに1994年「総合学科」が加わっています。総合学科とは選択履修により普通教育と専門教育の両方を総合的に施す学科のこと、だそうです。具体的には、普通科は国語,地理歴史,公民,数学,理科,保健体育,芸術,外国語,家庭,情報という「各学科に共通する各教科・科目」を中心に学習する学科のことで、専門学科は商業、工業、福祉、看護、水産、情報など将来の職業に密着した科目を中心に学習する学科と、英語・理数・音楽・美術・体育など特定の普通科目を重点的に学習する学科ことで、総合学科はこの両方を選択して学べる学科ということになっています。総合学科は、学びながら進学、就職のいずれへの準備も可能な学科という位置付けのようです。
これだと高校では3つの学科しか設置できないように思われますが、実は多彩な学科が設置可能となっています。例えば青森山田高校と大津高校の例でいえば、普通科スポーツコース、普通科体育コースに変えて、スポーツ科、体育科の設置も可能です。これは普通科、専門学科、総合学科の中で専門学科の分類の1つとなり、考え方として職業教育的な位置付けとなりますから、それを嫌って普通科の1コースとしているように思われます。サッカーを職業にできる生徒は一部であり、多くが大学へ進学または一般企業へ就職している現状から、職業教育的色彩が強いスポーツ科、体育科にはしていないものと考えられます。
この結果全高校生の7割強が普通科に通うことになっているようです(普通科73.1%、専門学科21.5%、総合学科5.5%)。これは画一的な人材を養成するには有効な制度ではありますが、現代のように国としても突出した人材を生み出さないと没落し、個人としても才能を生かさないと生き残れない時代にはそぐわない制度となっています。このため2022年度から学校設置者の判断により、普通教育を主とする学科の中に、「普通科」以外の学科を設置することが可能となるようです。そして新学科の設置枠として次の指針が示されています。
・学際的な学びに重点的に取り組む学科
・地域社会に関する学びに重点的に取り組む学科
・その他特色・魅力ある学びに重点的に取り組む学科
3番目の指針によればこれまでの普通科を再編して生徒の才能に応じた学科が作れることになっています。これに基づき今後は普通科のコースが学科に形を変えるものが続出すると考えられます。例えば青森山では普通科の中に特進コース、吹奏楽コース、美術コース、演劇コース、キャリアアップコースという実質的な専門学科が置かれており、これらが普通科から独立して科となると思われます。これらは個人の才能を伸ばすためには良い方向であり、これを軌道に乗せるためには、大学にもこれらの学科から進学できるようにする必要があります