70歳雇用義務化が企業の正社員削減を招く
東京商工リサーチによると、2021年に希望退職を募った国内の上場企業が80社以上になったということです。コロナ禍が直撃した2020年は93社で、2年連続で80社以上となるのはリーマン・ショック後の2009年、2010年以来ということです。募集者数の合計は判明分だけで1万5千人を超えており、2020年の1万8,635人に続き、2年連続で1万5千人を超えるのは2002年、2003年以来ということです。1,000人以上がJT、やホンダ、KNT―CTホールディングス、LIXIL、パナソニックの5社ありました。業界別では、アパレル・繊維の12社、電気機器が9社、観光を含むサービスが7社となっています。このうち約4割の企業は黒字でとなっています。これについては、脱炭素の流れを受けての事業を転換のため、人口減による市場縮小を見越して、などの書かれていますが、もっと大きな潮流が存在します。それは安倍政権が決定した70歳雇用努力化の先の雇用義務化に備えるためです。
昨年9月9日に行われた経済同友会のオンラインセミナーで、サントリーホールディングの新浪社長が「45歳定年制」を提案しましたが、これは政府の70歳雇用義務化の動きがあってのことです。新浪社長も同セミナーでの発言で「国は(定年を)70歳ぐらいまで延ばしたいと思っている。これを押し返さないといけない」と述べています。これに対する企業側の意見として「45歳定年制」をぶつけてきたと考えられます。サントリーは家族的経営で知られており、65歳定年制(あるいは60歳定年で、65歳まで雇用延長)が経営の中に定着しています。従ってこれを45歳定年制に切り替えるのは不可能と言ってよいと思われます。
このように新浪社長の45歳定年制は実現を目指したものではありませんが、大企業においては政府の70歳雇用義務化に対する危機感(アレルギー)が強いのは間違いありません。一部の生保や損保、銀行などの規制業種が導入する姿勢を示していますが、多くの大企業では導入不可能です。それは65歳以上の社員にやらせる仕事がそれほどないからです。今でさえ大企業では55歳までには役職定年となり、一般職と同じ待遇となります。そしてこの人たちの取扱いに困っています。それはこの人たちが管理職経験者であり、プライドが高く、自分より年下や元の部下の元で働くことに抵抗感が強いからです。そのためかっては関連会社を作り、そこに押し込んでいましたが、現在ではそんな不採算な企業を維持する余裕がなくなっています。そうなると親会社で不要な人材を15年抱えることになります。これはコストと共に会社の雰囲気でもマイナスとなります。
そのため会社としては正社員を抑える方向となります。今後については採用を抑制すればよいのですが、今の社員については希望退職などで減らしていくしかありません。その動きが2020年のコロナにより顕在化してきていると考えられます。
今年からはコロナによる利用者の激減で大赤字に陥った鉄道、飛行機、バスなどの公共交通機関が累積した赤字を減らすためと将来の人口減に応じた体制を作るために、人員削減を本格化すると予想されます。また、好業績企業はキープヤングが不可欠であり、実質的に50歳雇用制に移行すると考えられます。これらの企業では同時に50歳までに生涯賃金を支払う賃金体系に移行しますので、正社員にとっても望ましい雇用体系と言えます。
今後の雇用システムは、政府が全企業一律に70歳雇用制を義務付けるのではなく、生涯賃金を前倒しで払う形での早期定年制も認め、多様な雇用形態を認めるべきだと思われます。