携帯料金はまだ2兆円下げる必要がある
携帯電話3社の2022年第3四半期決算が出揃いました。
各社とも儲け過ぎ批判を躱すため、事業部門の括りを携帯電話事業と他の事業を一緒にして、携帯電話事業単独の収支を見えずらくしています。
先ずNTTドコモのQ3は、売上高3兆5,175億円、営業利益7,696億円、営業利益率21.8%となっています。値下げの影響は565億円としています。
次にKDDIですが、携帯電話事業が含まれるパーソナルセグメント事業の売上高は3兆4,543億円、営業利益7,241億円、営業利益率20.9%となっています。値下げの影響については明らかにしていませんが、ドコモ、ソフトバンクと同程度(560億円)と考えられます。
最後にソフトバンクですが、携帯電話事業が含まれるコンシューマ事業の売上高は2兆1,084億円、営業利益5,187億円、営業利益率24.6%となります。値下げの影響は564億円としています。
これを見る限り3社の決算に対する値下げの影響は極めて軽微であると言えます。通信料以外の収入が含まれているとは言え、各社とも営業利益率20%を超えており、家計からの収奪が続いている状態です。
値下げの影響については、各社各四半期約200億円の減収ですので年間では約800億円の減収、3社合計では2,400億円程度の減収と予想されます。これは通信事業収入約15兆円の1.6%程度であり、微々たるものと言えます。携帯電話料金の値下げを唱えた菅首相は、他の公益企業と比べて営業利益率が高過ぎることを根拠としていましたから、電力企業の営業利益率5%(営業利益約7,500億円)が値下げのターゲットとなります。そうなるとあと2兆円の値下げが必要なことになります(2022年3月期3社の3社売上合計を15兆円、営業利益2兆8,000億円と想定)。
通信料値下げの影響がこれ程軽微に留まるのは、携帯3社の値下げプランがネット手続きのみとなっており、ショップでの手続きに慣らされた多くのユーザーが値下げプランに変更できないからです。それに高額な解約金付の旧契約がまだ半数近くを占め、ネット経由での解約・プラン変更を躊躇わせる効果を発揮しています。昨年秋これも撤廃する方向となりましたが、ソフトバンクは今年1月末まで、KDDIに至っては今年3月末まで引っ張ています。更にKDDIは、旧契約の違約金が有効な3月末でガラケーサービスを廃止すると発表し、違約金を逃れるためにはauのスマホに移行するしかないようにしています。このように悪質さが際立つKDDIの高収益がひと際目立っています。
これらの決算発表後の2月ヤフーニュースに・・「携帯料金値下げ」は終焉へ、日本は世界最安の料金水準に、一方で5G整備に危機感・・という表題の記事が掲載されました。先ほどの携帯3社決算内容を知れば、この記事が如何に実体と乖離しているか分かると思います。わずか1.6%程度の値下げにしかならず、まだ20%以上の営業利益となっているのに、この標題はどこから出てくるのでしょうか?決算上の数字と家計の立場からは出てきません。
ヤフーはソフトバンクの子会社であり、ヤフーニュースはソフトバンクに都合の良い情報を優先的掲載します。この記事もソフトバンクがこれ以上の通信料値下げを阻止するために書かせ、掲載したと考えれば理解できます。ITライターにとって携帯3社は誘導記事や広告記事の最大の顧客であり、通信料値下げは仕事の減少に繋がります。即ち、彼らにとって家計の負担軽減よりも自らの収入維持が重要なのです。こう考えると決算の実体と乖離したこの記事の意図が見てきます。
尚この記事では、携帯3社の収入が減れば5Gの設備投資が減り、日本の5G時代の到来が遅れると言っていますが、全く論外の主張であり、脅しです。それは5Gの設備資金の出所が分れば理解できます。5Gの設備資金は各社年間4,000億円前後と思われますが、このうち3,000億円程度は減価償却費という費用から出ています。減価償却費と言うのは、これまでの通信設備投資額を設備の耐用年数に基づき期間案分し、この額を損益計算書に費用として計上したものです。通信設備投資としては既に現金の支払いは済んでいますから、毎年損益計算書に計上される原価償却費は、費用となっていても現金の支払いを伴いません。即ち減価償却費が計上されることで利益がこの分減少しますが、現金収支で見ると利益以外にこの額がプールされていることになります。従って、各社の5G設備投資資金は利益と減価償却費の合計額が原資となります。携帯3社とも純利益5,000億円程度で、減価償却費が3,000億円程度ありますから、年間約8,000億円の余剰現金が生じ、これが原資です。またこれまで3社が協調して家計から膨大な資金を吸い上げており、この内部留保がNTTとKDDIで4~5兆円、ソフトバンクで1.5兆円あります(ソフトバンクはソフトバンクグループの内部会社の時代が長いため、この資金はソフトバンクグループが吸い上げ、アームやスプリントの買収に使った)。従って3社とも5G設備投資資金は潤沢にあります。減価償却費を考えると利益が1,000億円あれば年間4,000億円の5G設備投資が可能です。
このように損益計算書やキャッシュフローの仕組みを知らず、かつ自分の懐しか考えないITライターの記事に騙されないことが必要です。