TSMCの採用は日本の半導体企業からの転職組で占める
熊本に半導体工場を作る台湾のTSMCが4月から工場建設に着手し、従業員の募集を開始すると言う報道です。TSMCが正式に熊本進出を表明したのは2021年11月9日ですから、TSMCの進出準備は相当早くから進行していたことが分かります。設備投資額も最近当初の8,000億円から9,800億円に増額され、製造する半導体も線幅22~28nmから10~20nmとランクアップ、従業員数も1,500人から1,700人へと増員されています。これらの発表は日本電装(デンソー)の出資(400億円)の後ありましたので、トヨタ向け半導体の受注が決まったことが原因と考えられます。
今後の操業開始に向けて一番の難関は従業員の採用です。現在日本の半導体関連企業は業績好調であり、半導体に通じた人材は引っ張りダコの状態です。それに半導体各社は業況が好調であり、報酬を大盤振る舞いしている企業もあります。こんな中で必要な人材を集めるのは至難の業と考えられます。
新聞にはTSMCの採用は2023年春に卒業する大学生や大学院生が主となるような書き方でしたが、実際の採用は既存の半導体メーカーからの転職組が中心となると思われます。日本の半導体メーカーとしてはCMOSセンサーのソニー、NAND型メモリーのキオクシアが有名ですが、このうちソニーは事業パートナーであることから、ソニーの社員を積極的に採用するとは思えません。そこで東芝から分離され、投資ファンドが大株主となっているキオクシアの社員が相当応募することが予想されます。また車載半導体に強いルネサスエレクトロニクスからの引き抜きも予想されます。ルネサスには熊本市川尻や大分市に工場があり、半導体製造に携わっている技術者が相当います。TSMCの工場が熊本ということもあり、動きやすいと考えられます。また熊本の合志市には三菱電機の半導体工場があり、三菱電機は最近いろいろな問題が露呈していることから、転職を考える技術者も多いと考えられます。同じく外資系ということもありウエスタンデジタルやインテルの日本法人からの転職も考えられます。
大学または大学院の新卒については、日本の大学には半導体関連学部が少なく、かつあっても日本企業との繋がりが強いことから、採用に苦労することが予想されます。こちらの方は実際に工場が出来てからでないと動かないのではないでしょうか。
ということで今後TSMCの工場が出来てくると、半導体業界で大量の人材移動が生じそうです。その結果、既存の半導体企業で人材不足が深刻化しそうです。
(TSMCの基本給は、大卒28万円/修士32万円/博士36万円と日本の半導体企業より1,2割高いようです。)